第3章 3-6 自宅を子どもに残す前に何を話し合うべきか?
50代になった自衛官へ~これから「家」をどうする?

始めに結論
子どもに家を「残してあげる」と決める前に、子ども本人が「使うのか」「維持費を支払えるのか」「将来売れるのか」を確認してください。親にとって帰る場所でも、子どもにとっては遠方の管理責任になる場合があります。優先順位は、①家族の利用意思、②所有と管理の担当、③費用と資金源、④相続時の名義・税務、⑤不要になったときの出口です。相続させることと、家族の生活を守ることは、必ずしも同じではありません。
最初に確認する5条件|「残したい」という気持ちだけで決めない
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判断項目 |
家族会議の前に明らかにする内容 |
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最大損失額 |
空き家管理、税・保険、老朽化修繕、家財撤去、相続登記、将来の売却・解体費等の合計。現地調査と見積前に上限は断定できない。 |
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成功条件 |
所有者の意向と取得予定者の利用意思が一致し、費用負担と処分手順を引き継げる状態。 |
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失敗条件 |
住まない家の管理を子に委ね、兄弟姉妹間で利用・費用・売却の意見が食い違う。 |
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損切り基準 |
取得予定者に利用意思がない、管理者が決まらない、将来の費用を支払えない場合は贈与・遺言・大型修繕等の実行を保留。 |
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実行しない選択肢 |
所有中は親が管理を続ける、生前売却を検討する、意向確認だけ行い移転手続を急がない。 |
子どもに聞くべき最初の問いは「住みたいか」であり「もらいたいか」ではない
家を無償で受け継げるという話と、暮らしの拠点として使用する意志は別です。子どもが県外で仕事をし、家庭や学校、住居を築いているなら、実家の土地建物が魅力的でも、定期管理・修繕・通行の負担が生じます。親が「将来は戻ってくるだろう」と考え、子どもは「売却するなら手伝う」と考えている可能性もあります。家族が対立する前の段階で、利用と所有を分けて聞いてください。
家は現金と違い、分割してそれぞれの暮らしで使える資産とは限りません。共有で相続する場合、維持・管理や処分について関係者の協議が必要になる可能性があります。「相続した不動産は、すぐ売却できる?」では相続登記・共有名義・権利関係の確認を、「相続不動産を売却する前の最終チェック」では家財や境界・抵当権など実務の点検を詳述しています。話し合う前に、何が引継ぎ対象かを資料で整理してください。
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質問 |
本人が確認したい答え |
話が曖昧な場合の対応 |
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誰がその家で暮らすか |
住む人・時期・期間・同居家族の了解 |
居住者を決めず利用権限も決めない |
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誰が費用を支払うか |
税・保険・管理・修繕の支払担当 |
通帳・領収書から年間実額を把握 |
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誰が管理するか |
鍵・通風・雨漏り・庭木・災害時対応 |
管理委託と距離・費用を比較 |
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不要になったらどうするか |
売却・賃貸・解体の検討担当 |
現況と市場価値を先に確認 |
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兄弟姉妹はどう考えるか |
利用予定・公平感・負担に対する意向 |
感情の対立前に専門家へ相談 |
「子どもに残せば相続税対策」は安易な結論|税金と所有権を別々に考える
生前に所有権を移す「贈与」と、死亡後に財産が移る「相続」では課税関係・登記・関係者の権利が異なります。税を減らす目的だけで名義を移すと、贈与税・登録免許税・不動産取得税などの検討が生じ得ます。具体的な課税・特例の判断は税理士、登記の手続は司法書士、遺言や権利紛争は弁護士等へ確認する必要があります。
法務省「相続登記の申請義務化について」によれば、2024年4月1日から相続登記の申請義務が始まりました。相続で不動産を取得したことを知った日などを基準として原則3年以内の申請が必要で、2024年4月1日以前の相続で未登記の場合の経過措置もあります。義務を満たすかは個別の起算日で確認してください。遺産分割成立後の追加義務も別にあります。
相続後に売却する可能性があるなら、税務資料の引継ぎも重要です。国税庁 No.3270「相続や贈与によって取得した土地・建物の取得費と取得の時期」は、原則として被相続人の取得費・取得時期を相続人が引き継ぐとしています。権利証や売買契約書、取得費を証明する資料、修繕・増改築履歴を保管する意味は、相続登記だけにとどまりません。「相続不動産を売る前に知っておきたい税金・取得費・売却時期」でも税金と売却時期を分けて整理しています。
架空試算|売らずに残す家にも「受け取った後の請求書」がある
以下は特定地域の相場でも、代表者の支出実績でもありません。仮に固定資産税年11万円、保険年7万円、日常管理・点検年10万円、修繕準備年20万円とした場合の単純比較です。将来の税率・物価・建物状態の変化や重大事故は含みません。
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仮定した費用 |
年額 |
10年単純合計 |
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固定資産税等 |
11万円 |
110万円 |
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火災・地震保険等 |
7万円 |
70万円 |
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庭木・通風・見回り等 |
10万円 |
100万円 |
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将来修繕の積立 |
20万円 |
200万円 |
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合計 |
48万円 |
480万円 |
家が空いているまま10年間所有した仮定でも480万円の現金支出または積立を要します。積立20万円は実際の工事費発生時と一致せず、現実には設備更新・雨漏り・外壁工事が一度に集中する可能性があります。建物や家財の処分に必要な金額と、相続登記・譲渡所得税の有無は別途検討してください。
「親は残したい、子は住まない」場合の3つの整理案
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選択肢 |
意味 |
実行前に必要な確認 |
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将来の相続まで所有する |
親の居住・利用の継続を重視 |
管理主体、老朽化、遺言、利用意思、費用引継ぎ |
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生前に売却を比較する |
次世代へ現金等を残す選択肢も確保 |
売却後の親の住居、手取り額、税務、家族の意向 |
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住居を維持し賃貸化等を検討 |
利用がなくても収支を生む可能性を検討 |
法令、契約、修繕、貸し出し需要、空室・滞納への備え |
どの方法でも、親の生活資金を失わせる決定は避けます。家を現物で残しても、相続人が売却したい場合には名義・他の相続人の権利・税務などの整理が必要です。売却代金を現金として遺す場合も、遺産配分や税務が自動的に解決するわけではありません。
仲介実務の視点|「残す」という言葉に隠れる5枚の未確認書類
不動産を引き継ぐかの検討では、土地と建物の登記事項証明書、固定資産税の課税明細、過去の取得契約書、融資・抵当権資料、改修・点検履歴が重要です。面積や名義が思い込みと違うこともあるため、思い出だけで判断しないことが肝心です。不動産業者は市場性・物件調査を担当し、遺産分割や権利関係の法律判断を独断で確定しないようにします。
家族会議の進め方|一度で結論を出さず、役割を決めて終了する
- 最初に所有者が「残したい理由」と「自分の生活資金として必要な額」を説明する。
- 受け取る側は利用意思と現実の維持管理能力を回答する。
- 不動産の資料をそろえ、年額負担と大規模修繕の見込みを共有する。
- 相続・贈与・売却の法務・税務を専門家に分けて確認する。
- 最終判断は「誰が・いつ・何をするか」を決め、未確認事項が残る間は名義移転や工事を急がない。
2026年給与ワンポイント|現役の給与と退官後の収支は別
防衛省・令和8年版防衛白書「自衛官の処遇改善」では、2025年度から手当の新設・引上げなど給与面の処遇改善が実施されたと説明し、2027年度には自衛官の給与体系の独自改定を目指す方針を示しています。ただし、現役の給与改善を退官後の収入増として扱うことはできません。2026年の本人の手取りは階級・号俸・各種手当・控除を給与明細で確認し、退官日と再就職収入は別の欄で見積もってください。人事院の一般職俸給表をそのまま自衛官の俸給表として流用しません。
無料ワークシート|判断条件を数字と文章で記録する
「50代自衛官のための住まいを考えるワークシート」の「20 資産を残す・残さない整理表」に、家族一人ひとりの利用意思、管理者、費用負担、保有期間、売却を検討する時期、確認先を分けて記入してください。
よくある質問(Q&A)
Q1.子どもが「いらない」と言う家でも残すべきですか?
所有者の意向だけでなく、利用する予定があるか、維持費を払えるかを確認します。相続前の売却や管理継続を比較する余地があります。
Q2.家を兄弟2人の共有で相続させれば公平ですか?
財産上の持分の配分と、管理・売却の意思決定のしやすさは別問題です。共有の手続や紛争予防について弁護士・司法書士等へ確認します。
Q3.相続登記はいつまでに行う必要がありますか?
原則として相続による取得を知った日などから3年以内です。施行前相続の経過措置、遺産分割後の追加義務などは法務省の最新案内で確認します。
Q4.相続後すぐ売ると必ず短期譲渡所得ですか?
必ずしもそうではありません。国税庁は原則として被相続人の取得時期を引き継ぐ扱いを示しています。個別税額は税理士へ確認します。
Q5.残したい家の管理費は誰が決めるべきですか?
親と取得予定者が実際の税額・保険・修繕見積を共有し、管理主体と資金源を合意しておくことが重要です。
根拠資料・確認日
制度と既存記事の確認日:2026年10月10日。架空の試算は相場・実績・予測ではありません。個別の相続、登記、税務、金融契約などは専門家・所管窓口で確認してください。
執筆/監修
株式会社陸自不動産 小松野美貴哉