第3章 3-7 高齢期に住み続けやすい家の条件とは?
50代になった自衛官へ~これから「家」をどうする?

始めに結論:高齢期に住み続けやすい家は、築浅かどうか、部屋数が多いかどうかでは決まりません。「寝室からトイレと浴室まで安全に移動できるか」「車がなくても通院や買物ができるか」「必要な改修を退官後の家計で維持できるか」を先に確認します。住宅の室内だけでなく、玄関から道路、交通機関、医療・生活拠点までを一続きの生活動線として判断する必要があります。
購入・改修・住み替えより先に、生活継続の5条件を置く
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判断項目 |
高齢期の住居選びで定義する内容 |
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最大損失額 |
改修・住み替え費用、引越代、元の家の保有費、通院・移動費、将来の追加工事。現地の見積と移動条件を確認するまで上限不明。 |
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成功条件 |
主要動線の安全性、外出・通院・買物、家族・支援への接続が、長期の資金計画と両立する。 |
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失敗条件 |
現在の身体能力と自家用車だけで家を評価し、段差や交通の変化に対応できない。 |
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損切り基準 |
構造上改修困難、交通手段が一つしかない、改修資金が生活費を圧迫する場合は大規模工事・購入を保留。 |
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実行しない選択肢 |
手すり・照明・滑り対策等の部分改善、生活圏の試用、賃貸への段階的な移転を比較。 |
危険は「家の中」だけにない|玄関から病院までを1本の動線で測る
現役時代は早朝からの移動、階段、車移動に支障がなくても、10年後・20年後も同じ生活を続ける前提は置けません。「階段を上れるか」だけでなく、夜中にトイレまで歩けるか、雨の日に玄関から道路へ出られるか、運転を控えたときに食料品を入手できるか、体調不良の日に通院手段を確保できるかを確認します。特定の健康状態を予測して判定するものではありません。
国土交通省「高齢期の健康で快適な暮らしのための住まいの改修ガイドライン」は、温熱環境、外出のしやすさ、トイレ・浴室、日常生活空間の合理化、主要動線のバリアフリー、設備更新、光・音・湿度、余剰空間の活用の8項目を提示しています。いずれも設備の豪華さでなく「日々の暮らしが継続できるか」を重視した項目です。
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生活動線 |
確認する具体的条件 |
問題がある場合の検討 |
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寝室→トイレ |
夜間の照明、段差、床材、手すり、距離 |
トイレの近接化・照明等の改善 |
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寝室→浴室 |
脱衣室温度、段差、浴槽またぎ、滑り |
手すり、温熱環境、浴室改修 |
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居間→台所 |
通路幅、収納、昇降、重い物の移動 |
一階生活・動線短縮・収納位置 |
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玄関→道路 |
階段、勾配、雨天の滑り、門扉 |
外部手すり、段差改善、出入口変更 |
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自宅→生活拠点 |
通院、買物、公共交通、歩道・坂道 |
バス時刻・送迎・転居先を比較 |
「1階だけで暮らせるか」は間取り図でなく現地を歩いて確認する
2階建ての家でも、寝室・トイレ・洗面・浴室・台所が1階に配置できれば、階段への依存を減らせる可能性があります。一方で廊下が狭い、玄関の段差が大きい、庭・駐車場と道路の高低差が大きい住宅では、建物内の手すりだけで十分とは限りません。雨天や暗い時間帯の動線を実際に見てください。
既存住宅の改修を考える場合は「価値を上げるリフォームとは?」を読むと、資産価値の改善と居住上の利便性が必ずしも一致しない点を整理できます。また、築年数と実際の状態の関係は「築30年・40年・50年の古い家でも売れる?」の建物状態の確認とも関係します。高齢期の生活動線を整える工事は、売却価格だけで採算判断しないでください。
退官後に自家用車が使えなくなっても暮らせるか
生活拠点の評価は直線距離だけでは不十分です。診療所まで2kmでも坂道、横断歩道、バスの便数、徒歩時間、降雨時の道路状況によって移動の負担は違います。買物先が遠く、運転する家族もいない場合には、宅配・交通支援・行政サービスの利用可否を確認する必要があります。制度やサービスは自治体や地域で変わるため、パンフレットと実際の運行時刻を照合してください。
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点検項目 |
車での現在の生活 |
車に依存しない生活を想定 |
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食料品 |
店舗まで車で移動 |
徒歩・バス・配達の利用条件 |
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通院 |
本人運転または家族送迎 |
バスの便・停留所・乗換・タクシー費 |
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役所・金融機関 |
昼間の車移動 |
公共交通・オンライン手続・代理支援 |
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災害時 |
車での避難を想定 |
徒歩避難経路・一時避難先・連絡手段 |
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家族の支援 |
同居者の運転を期待 |
独立した連絡先・支援者の確保 |
架空比較|遠い家の維持費は、家屋だけでなく移動費を含めて比べる
以下は住宅改修の相場ではなく、判断に必要な支払項目を可視化する仮定です。A案は既存持ち家を維持、B案は生活圏に近い賃貸住居へ移る場合とし、A案に持ち家の維持費(税・保険・修繕準備)年44万円と将来の改修工事170万円、B案に賃貸家賃・共益費月9万円、引越・敷金等50万円を仮置きします。移動費・光熱費・B案の更新費等は未算入とします。
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10年単純比較(仮定) |
初期負担 |
毎年の住居関連費 |
10年累計 |
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A案:現宅を保持し改修 |
170万円 |
44万円 |
610万円 |
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B案:賃貸へ転居 |
50万円 |
108万円 |
1,130万円 |
A案の計算は170万円+44万円×10年=610万円、B案は50万円+9万円×12か月×10年=1,130万円です。A案は将来の追加改修や保有住宅の売却価値を含まず、B案も更新費・家賃変動を考慮していません。費用が小さい案が安全で住みやすいという意味ではありません。A案の通院・移動や安全対策が不十分なら、安さだけで残る判断は適切ではありません。
立地を変えずに改修するか、家を変えて生活動線を短くするか
家の内部に手すりを付けても、公共交通が乏しい地域での生活問題は解消しません。反対に駅前へ引っ越しても、浴室・玄関に段差のある建物なら別の対策が必要です。住宅を「改修する」案と生活拠点を「移す」案は対立する決断ではなく、安全性・移動・現金・居住期間を比較して選ぶ別々の手段です。
住み替え・賃貸の比較では「賃貸と住宅購入は20年間でどちらが得?」が、取得・賃料・長期費用を比較しています。ただし退官後の高齢期には金額差だけでなく、通院手段、段差、家族の支援の有無も判断の中心になります。
私の場合
私は遠方に自宅を所有していますが、普段は会社近くのワンルームで生活しています。
仕事や生活環境によっては、所有する家と実際に暮らす場所が異なることもあります。
ただし、二つの住まいを維持するには、それぞれ費用がかかります。
大切なのは、家を所有し続けることにこだわらず、今後の生活拠点や経済的な負担を踏まえて、自分に合った住まい方を選ぶことだと考えています。
5年後・10年後・20年後を分けた生活動線の点検手順
- 寝室、トイレ、浴室、台所、玄関、道路まで現地を歩き、段差・暗がり・滑りを確認する。
- 自家用車を使う場合と使わない場合の通院・買物の所要時間と交通手段を記録する。
- 安全のための部分改修と大型改修を分け、必要な費用を見積もる。
- 退官後の現金収支、保有費、別居住居の費用を同じ表で比較する。
- 住み続けるのが難しい場合の賃貸・住み替え先と実行時期を予備案として確認する。
2026年給与ワンポイント|現役の給与と退官後の収支は別
防衛省・令和8年版防衛白書「自衛官の処遇改善」では、2025年度から手当の新設・引上げなど給与面の処遇改善が実施されたと説明し、2027年度には自衛官の給与体系の独自改定を目指す方針を示しています。ただし、現役の給与改善を退官後の収入増として扱うことはできません。2026年の本人の手取りは階級・号俸・各種手当・控除を給与明細で確認し、退官日と再就職収入は別の欄で見積もってください。人事院の一般職俸給表をそのまま自衛官の俸給表として流用しません。
無料ワークシート|判断条件を数字と文章で記録する
「50代自衛官のための住まいを考えるワークシート」の「14 老後生活動線確認表」を使い、寝室→トイレ→浴室→玄関→道路→買物・通院先までを、日中・夜間・雨天の条件別に点検してください。
よくある質問(Q&A)
Q1.平屋なら必ず高齢期に住みやすい家ですか?
平屋でも玄関段差、浴室の滑り、断熱・室温、周辺交通の課題はあります。室内から地域までの動線を一続きで確認します。
Q2.何歳になったらバリアフリー改修すべきですか?
年齢だけで決めず、現在の危険箇所と将来の暮らし方を基に計画します。国土交通省は高齢期に備えた早めの改修を推奨しています。
Q3.車に乗れるので通院距離は気にしなくてよいですか?
運転を控える場合も想定し、バスや徒歩、送迎・タクシー等の代替手段を点検します。
Q4.駅の近くに移れば必ず便利ですか?
駅から住宅までの段差、商業施設、医療機関、交通便数を実際に確認しなければ判断できません。
Q5.持ち家を残しながら近くの賃貸で暮らす選択はできますか?
生活形態としてあり得ます。ただし二拠点の住居費、保険・管理、住民票や住宅ローン契約上の条件等は個別確認が必要です。
根拠資料・確認日
制度と既存記事の確認日:2026年10月10日。架空の試算は相場・実績・予測ではありません。個別の相続、登記、税務、金融契約などは専門家・所管窓口で確認してください。
執筆/監修
株式会社陸自不動産 小松野美貴哉