第3章 3-8 50代自衛官が投資物件を持っている場合、定年までに何を整理する?
50代になった自衛官へ~これから「家」をどうする?

始めに結論
投資物件を持ったまま定年退官を迎える50代自衛官が確認すべき数字は、「家賃収入の総額」でも「表面利回り」でもありません。退官時点の借入残高、毎月の手取り現金、空室と修繕に耐える資金、売却後の税引後手取り、そして物件を管理する時間を、1棟ごとに並べる必要があります。「保有・売却・借換え・現金化」の4案を比較し、資産があるのに生活費が足りない状況を避けることが最優先です。
投資用不動産では最初に5つの損失管理条件を明確にする
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判断項目 |
保有物件の再判定で必要な内容 |
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最大損失額 |
空室・家賃下落・賃料滞納・災害・修繕・金利上昇・売却損・税等のリスク。保有年数と負債契約を決めるまで上限確定不可。 |
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成功条件 |
退官後の収入変化があっても生活費を圧迫せず、修繕・返済・税を払った後の現金が確保できる。 |
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失敗条件 |
帳簿上は黒字でも、元本返済と大型修繕で現金不足を起こし、期限に迫られて不利な売却を選ぶ。 |
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損切り基準 |
修繕資金未確保、金利変更後の返済耐性不足、売却時の不足資金不明、管理継続不能なら新規借入・改修契約を保留。 |
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実行しない選択肢 |
追加投資をしない、管理委託や部分修繕で保有可否を再調査する、借換え・売却を条件付きで比較する。 |
「4棟持っていた」より重要なのは、退官までにどう整理したか
私は現役中に不動産4棟の運用を経験しました。また、定年退官の約2年前から収益物件3棟の整理を進め、退官する年に最後の物件を売却しました。4棟を所有したこと自体が成功の証拠になるわけではありません。投資判断の中心は、保有を続けられるのか、どの時点で整理するのかを事前に把握する点にあります。
退官日に資産整理を始めるのでは、査定、残債照会、修繕見積、賃貸借契約の確認、融資金融機関との調整、売却決済、税務計算までの時間を確保しにくくなる場合があります。ただし、代表が運用した個々の物件の購入価格、借入額、家賃、利益、売却額は確定情報ではないため、本稿で推測しません。
家賃収入は「自由に使える現金」ではない|税務所得・現金収支・資産価値を分ける
国税庁 No.1370「不動産収入を受け取ったとき(不動産所得)」では、不動産所得は原則として総収入金額から必要経費を差し引く計算です。必要経費には固定資産税、保険料、減価償却費、修繕費等が挙げられます。一方で、借入金元本返済は現金支出ですが、一般にそのまま必要経費とはなりません。逆に建物の減価償却費は税務上の費用でも当該年に同額の現金が出ていくわけではありません。
「確定申告上の黒字」「毎月の通帳残高」「将来売った後に残る資金」は、3枚の別表として管理します。金融機関からの借入可能額が、退官後にも負担なく返済できる額と一致する保証もありません。住宅ローンと投資用ローンの違いは「投資用ローンと住宅ローンを混同しない」で、投資形態ごとの管理条件は「自分に合った不動産投資を選ぶ」で整理しています。
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見る表 |
含める数字 |
読み違えると起きること |
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税務上の不動産所得 |
賃料等-必要経費(減価償却等) |
税務所得と返済可能な現金を同じとみなす |
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運営の現金収支 |
入金賃料-運営費-返済総額-工事支払 |
空室・修繕年の資金不足を見落とす |
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売却後に残る資金 |
売却代金-残債-売却費用-税等 |
査定額を自由に使える資金と誤認する |
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退官後の生活収支 |
再就職等の手取り-生活費-投資物件からの持出し |
本人家計が不動産を補填し続ける |
架空試算|年間家賃144万円でも、手元現金が残らない条件を確かめる
以下の数字は相場や代表の実績ではありません。1棟につき満室想定家賃144万円(12万円×12か月)、空室・滞納見込20万円、管理・保険・固定資産税等35万円、年間の融資返済65万円、将来修繕への積立30万円と仮定します。税金は未計算です。
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年間収支の項目(架空) |
金額 |
意味 |
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満室想定家賃 |
+144万円 |
満室時の請求額を仮定 |
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空室・未収見込 |
▲20万円 |
受け取れない可能性のある額 |
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税・保険・管理など運営支出 |
▲35万円 |
現金支出の仮定 |
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融資元利返済 |
▲65万円 |
元本を含む現金返済 |
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修繕準備資金 |
▲30万円 |
将来工事用に使わない資金 |
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生活費に使える現金の目安 |
▲6万円 |
税引前でも不足する例 |
計算は144-20-35-65-30=▲6万円です。家賃だけ見ると年144万円の収入ですが、将来の修繕資金を確保すると現金が不足します。しかも大規模修繕が一度に発生すれば、積立だけでは足りない年もあります。反対に、賃料や借入残高などの前提を変えれば結果は変わります。退官後の現金収支は必ず物件ごとの実額で計算してください。
退官2年前からの出口設計|年表がなければ、売り時は他人に決められる
退官直前の売却を強制する趣旨ではありません。保有を続ける選択をする場合でも、退官前に出口条件を固定しておけば、住み替えや再就職条件が変化した際に比較できます。売却成約までの期間は市場・権利関係・賃貸借契約・融資によって変わり、「いつでも売れる」という前提は置かないでください。
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退官までの目安 |
確認すること |
意思決定の条件 |
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約24~18か月前 |
1棟ごとの収支、借入残高、空室、修繕履歴、賃貸借契約を棚卸 |
赤字・借入依存・管理負担の大きい物件を特定 |
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約18~12か月前 |
金融機関条件、売却査定、物件調査、税試算、管理委託等を比較 |
保有・売却・借換えの候補を条件付きに絞る |
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約12~6か月前 |
管理体制、募集状況、工事の要否、必要な準備期間を更新 |
出口を実行する場合の時期と最低手取り額を設定 |
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退官の直前~退官後 |
退官後家計、残債、税務、物件の修繕予算を再照合 |
家計が不動産の赤字を抱えない体制へ調整 |
保有・売却・借換え・現金化|4案は同じ土俵で比較しなければならない
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候補 |
合理的となり得る条件 |
見落としてはいけない項目 |
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保有を継続 |
修繕と返済後も現金が残り管理できる |
空室長期化、金利、入居者対応、退官後の時間 |
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売却する |
必要な資金を確保でき、負担を解消する選択 |
残債不足、売却費用、税、賃貸借契約、売却期間 |
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借換えを検討 |
返済条件見直しで現金収支が改善する可能性 |
総支払額、手数料、審査、担保、期間と退官後所得 |
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現金化を優先 |
生活資金や負債圧縮が先行課題 |
受取額は売却金額でなく税・返済控除後の資金 |
借換えが必ず有利なわけではありません。返済期間の延長で月々の支払が小さくなっても、総支払額が増える場合があります。金融機関へ金利・期間・諸費用・残債と担保条件を照会し、借換えをしない場合と比較してください。投資物件の出口に関する注意点は「新築ワンルームマンション投資|出口戦略は買う前に決める」でも解説しています。
架空試算|査定1,500万円を「1,500万円の現金」と誤認しない
売却に関する架空条件として、売却価格1,500万円、金融機関への一括返済1,060万円、仲介・登記・その他売却費用95万円とします。譲渡所得税や消費税の税務影響は別途未計算です。
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売却条件の仮定 |
計算 |
税等の前に残る資金 |
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基準案 |
1,500-1,060-95 |
345万円 |
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売却価格▲100万円 |
1,400-1,060-95 |
245万円 |
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売却価格▲350万円 |
1,150-1,060-95 |
▲5万円(不足) |
表示した手元資金は税額を差し引く前の概算です。建物部分の取得費は減価償却の取扱いがあり、譲渡所得の算出には取得費と譲渡費用の資料が必要です。国税庁 No.3252「取得費となるもの」を根拠に税務専門家と計算してください。事業用建物の譲渡に係る消費税は課税事業者の状況等で論点になるため、国税庁 No.3240「個人が事業用建物等を譲渡した場合の消費税」も確認が必要です。土地の売却と建物の売却を一括して同じ税務扱いとしません。
自衛官の投資には「給与があるから安心」とは別の確認事項がある
投資物件を保有しているときも、自衛官としての服務・兼業に関する扱いは所属の規則・規模・管理形態等を確認してください。「不動産を持っている=一律に禁止」と断定するのも、「5棟未満なら何も手続不要」と一律に説明するのも正確ではありません。所属の担当部署へ自身の条件を照会し、税務と服務を別の課題として扱います。既存記事「自衛官は不動産投資をしてよい?」も基本的な判断軸になります。
投資の収益源は、住居の確保を目的とする住宅とは異なります。運用中は入居者への対応、契約更新、修繕・管理、火災等に備える保険、帳簿保管などが続きます。退官後の就職形態や生活場所が変わると、委託先との連絡・現地対応に要する時間も変化します。保有コストを賃料だけでなく、自分の時間まで含めて評価する必要があります。
私の場合
私は現役自衛官時代に収益不動産4棟を運用していましたが、定年退官を見据え、約2年前から3棟を順次売却しました。最後の売却は退官する年でした。
不動産は売却を決めても、買主が見つかり、決済を終えるまでには時間がかかります。また、退官後も保有する場合は、空室や修繕、借入金の返済などを考慮する必要があります。
私は、退官後も収益物件を持ち続けることが悪いとは考えていません。
大切なのは、退官後の収入で無理なく維持できるのか、売却するならいつ動き始めるべきかを判断することです。
定年退官の時期は決まっていても、不動産が希望どおりの時期に売れるとは限りません。だからこそ、現役のうちから資産整理を考えることが重要だと思っています。
実行手順|物件ごとに一枚の「出口判断表」を作る
- 賃料入金、滞納・空室、税・保険・管理費、実際の修繕費を年次で整理する。
- 借入返済予定表と直近残高を照会し、金利・期間・一括返済条件を金融機関で確認する。
- 今後10年の修繕・更新費と退官後の家計を同じ時間軸で試算する。
- 売却想定価格を複数条件で調査し、返済・税・費用控除後の現金を試算する。
- 保有・売却・借換えを比較し、新規投資や高額工事を決める前に損切り条件を明文化する。
2026年給与ワンポイント|現役の給与と退官後の収支は別
防衛省・令和8年版防衛白書「自衛官の処遇改善」では、2025年度から手当の新設・引上げなど給与面の処遇改善が実施されたと説明し、2027年度には自衛官の給与体系の独自改定を目指す方針を示しています。ただし、現役の給与改善を退官後の収入増として扱うことはできません。2026年の本人の手取りは階級・号俸・各種手当・控除を給与明細で確認し、退官日と再就職収入は別の欄で見積もってください。人事院の一般職俸給表をそのまま自衛官の俸給表として流用しません。
無料ワークシート|判断条件を数字と文章で記録する
「50代自衛官のための住まいを考えるワークシート」内の「13 住宅維持費年間一覧」で1棟ごとの税・保険・修繕を、「17 老後資金温存シート」で退官後の現金残高を、「20 資産を残す・残さない整理表」で保有・売却・借換え・現金化の判断条件を整理してください。
よくある質問(Q&A)
Q1.家賃収入があるなら定年後も持ち続けてよいですか?
家賃総額だけでは判断できません。空室・運営費・返済総額・大型修繕を含めた税引後の現金と、本人の退官後家計を確認します。
Q2.確定申告で黒字なら現金も残っているはずですか?
必ずしも一致しません。借入元本返済は現金支出でも一般に必要経費そのものではなく、減価償却は現金支出時期と異なります。
Q3.退官前に投資物件を全て売却した方がよいですか?
一律には判断できません。保有・売却・借換えを残債・修繕・家計・税務・管理体制で比較します。
Q4.査定価格より残債が少なければ売却して利益が確定しますか?
手取りは残債のほか売却費用・税等を差し引いて検討します。査定額は成約額の保証ではありません。
Q5.自衛官の不動産賃貸は何棟までなら自由ですか?
棟数だけで一律判断できません。服務・兼業に関する規則や承認等の要否は勤務先の担当部署へ個別確認してください。
根拠資料・確認日
制度と既存記事の確認日:2026年10月10日。架空の試算は相場・実績・予測ではありません。個別の相続、登記、税務、金融契約などは専門家・所管窓口で確認してください。
- 国税庁 No.1370「不動産収入を受け取ったとき(不動産所得)」
- 国税庁 No.3252「取得費となるもの」
- 国税庁 No.3240「個人が事業用建物等を譲渡した場合の消費税」
- 国土交通省「不動産情報ライブラリ」
- 防衛省・令和8年版防衛白書「自衛官の処遇改善」
執筆/監修
株式会社陸自不動産 小松野美貴哉