第4章 4-1 50代から家を持たない選択は合理的か?
50代になった自衛官へ~これから「家」をどうする?

始めに結論
50代自衛官が家を買わない判断は、退官後の勤務地・収入・家族の居住地が固まらず、購入後の手元現金も薄くなる場合には合理的です。住宅を買う能力と、住宅を今買う必要性は別です。ローン審査に通るかではなく、「退官後も住み続ける見込み」「住居費の総額」「移動の自由」「失敗時に生活を立て直せる現金」の4条件で判断してください。買わないことは、消極策ではなく、選択権を手元に残す決断になり得ます。
購入の可否より先に決める5条件|損失と成果の定義
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確認項目 |
意思決定の基準 |
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最大損失額 |
購入する場合は取得費・ローン返済・税保険・修繕・早期売却時の残債不足まで含め、契約と試算で上限を確認。未確定の将来売却価額を用いた厳密な最大額は算定できない。 |
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成功条件 |
希望する地域で必要な期間暮らせて、退官後の家計と生活予備資金を維持できること。所有の有無を成功指標にしない。 |
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失敗条件 |
数年で転居せざるを得ず、物件取得費・売却費用・ローン残債等が生活資金を圧迫すること。 |
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損切り基準 |
退官後の居住地域・就業・手取り・緊急資金が確認できなければ、売買契約と高額改修を保留する。 |
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実行しない選択肢 |
現在の賃貸を継続、期間を区切って情報収集、予算を下げた物件と比較する。 |
「家賃は捨て金」という言葉だけで家を買うのは危険
家賃を支払っても土地建物は手元に残りません。ただし家賃は、一定期間そこに住み、転勤・再就職・家族事情の変化に応じて契約条件の範囲で移転するための対価でもあります。住宅購入では住宅の資産価値を持つ代わりに、固定資産税、保険、設備故障、外壁・屋根等の修繕、売却できない期間の管理を負担します。つまり、賃貸は「資産が残らない」、購入は「返済さえすれば費用が終わる」という比較では不完全です。
陸自不動産の既存記事「賃貸と住宅購入は20年間でどちらが得?」は、更新費・修繕・購入費用・売却時点のローン残高まで含めた総費用比較を掲載しています。一般論を繰り返す代わりに、本稿では定年退官という収入と生活拠点の切替点に絞って考えます。住宅購入の適否を家計の観点から検討するときは「家を買わない方がよい家庭とは?」も併せてご確認ください。
50代自衛官には、「退官日」という期限がある
自衛官は現役中の給与・職務・住居条件が退官後も継続するとは限りません。防衛省「令和8年版防衛白書・新たな生涯設計の確立」では、若年定年退職者の所得について、一般に退職時の7割強へ低下し、60歳時点でさらにその7割に低下する構造を説明しています。公表資料の一般的な構造を個々の将来給与へ代入するのではなく、最も先に本人の具体的な再就職条件と家計を確認する必要があります。
たとえば現役時代の手取りで月々の住居費を支払える場合でも、再就職先が未定の状態で35年後まで同じ収入を仮定する合理性はありません。退官時点のローン残高、賃貸なら住み替え時の現金、家族がその家に住む予定年数を同じ時間軸に並べます。「30代・40代・50代で家の買い方はどう変わる?」も、年齢と所有期間の違いを判断するための既存記事です。
「買わない方が合理的」の5つの兆候を数値・条件で検証する
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兆候 |
家計・生活に生じる問題 |
最初に取る行動 |
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再就職先が未定 |
購入立地が通勤に合わない可能性 |
勤務候補地と移動時間を地図・公共交通で比較 |
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生活防衛資金が薄い |
家電故障や収入停止で別の借入が必要になり得る |
取得費用支払後の預金を月々の必須支出で割る |
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家族の居住年数が異なる |
本人が退官しても家族が地域に残る可能性 |
本人と家族ごとの居住年表を作成 |
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短期転居の可能性 |
購入費用と売却費用を短期に負担 |
3年・5年・10年の出口を比較 |
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維持管理する人がいない |
転勤・別居中の保守、空き家管理が負担 |
管理委託見積と所有の必要性を照合 |
架空試算|「月々の住居費だけ安い持ち家」は本当に安いのか
説明用の仮定として、賃貸は家賃・共益費込み月10万円、当初費用40万円、10年間の転居・更新費60万円。購入は毎月返済8万円、取得諸費用160万円、税・保険・通常修繕の準備年34万円、設備交換90万円とします。住宅ローンの残債や10年後の家の売却価値・売却費用、賃料変動、家計の機会費用は未算入です。金利・物件価格の相場ではありません。
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10年間の仮定 |
賃貸継続 |
購入して住む |
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初期費用 |
40万円 |
160万円 |
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10年間の月々の支払 |
10万円×120=1,200万円 |
8万円×120=960万円 |
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期間中の維持・更新 |
60万円 |
34万円×10年+90万円=430万円 |
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10年間の累計現金支出 |
1,300万円 |
1,550万円 |
上の現金支出比較では、住宅購入側が250万円多くなります。ただし住宅購入側には10年後の住宅資産とローン残高があり、賃貸側には別の契約更新・賃料変更リスクが残ります。したがって1,300万円と1,550万円の差のみで購入損益を断定できません。金融庁「ライフプランシミュレーター」は住居維持費を含めた将来収支の試算機能を提供しますが、結果は予測・保証ではないと明示しています。
関連経験|持ち家と生活拠点を分ける選択
私は遠方に自宅を所有していますが、普段は会社近くのワンルームで生活しています。
持ち家があるからといって、必ずしもそこで暮らす必要はありません。
特に定年退官後は、仕事や家族の事情、生活環境によって住まいの選択肢も変わります。
大切なのは、持ち家か賃貸かという二者択一ではなく、自分の生活に合った住まい方を選ぶことだと考えています。
なお、持ち家と賃貸を併用する場合の費用や注意点については、第4章第2記事で詳しく解説しています。
「買わない」結論を出すための実行順序
- まず退官予定日・再就職候補地・本人と家族の居住期間を紙に書く。
- 現役の手取りと退官後に確認できる収入を別の列に入力する。
- 賃貸継続・購入・一定期間の購入延期を、5年・10年の現金支出と出口で比較する。
- 金融機関の借入可能額ではなく、支払後に確保できる預貯金を確認する。
- 確認項目が不足する間は契約を急がず、次回判定日を決める。
2026年給与ワンポイント|処遇改善と退官後収入は別
防衛省「令和8年版防衛白書・自衛官の処遇改善」は、2025年度から30を超える手当等の新設・引上げなどを含む処遇改善が実現したと説明し、2027年度に自衛官の給与体系の独自改定を目指す方針を示しています。一方、同白書「新たな生涯設計の確立」が述べる若年定年後の所得低下を、現役時代の給与改善によって解消済みとは扱えません。2026年の住宅判断には階級・号俸・手当・控除を反映した本人の給与明細を使い、退官日以降は確定した再就職条件だけを確定収入として計上してください。一般職国家公務員の俸給表を自衛官の給与表と混同しません。
無料ワークシート|判断を現金と生活条件に落とし込む
「50代自衛官のための住まいを考えるワークシート(公式PDF)」内の「16 所有・賃貸比較表」「17 老後資金温存シート」を使い、賃料・返済・税保険・修繕・退官後手取り・残す現金の条件を記入してください。
よくある質問(Q&A)
Q1.50代で賃貸を続けたら住宅購入の機会を失いませんか?
将来の借入条件は年齢・返済期間・収入等で変わる可能性があります。一方、購入が現在の生活に適するかは別問題です。融資の個別条件を金融機関に確認し、買う・待つを同じ期間で比較します。
Q2.賃貸は家賃を払い続けるから必ず不利ですか?
断定できません。購入には諸費用、保有費、設備更新、将来の売却時費用等があり、残る資産価値は不確実です。
Q3.住む地域が決まっているなら購入してよいですか?
地域が決まっていても、退官後の支払能力と緊急資金、物件状態を確認する必要があります。
Q4.いったん買わないと決めたら、その判断を続けるべきですか?
再就職地や家族の生活圏が確定した時点で再評価できます。「買わない」は永続的な誓約ではなく、条件に応じて見直す判断です。
Q5.代表自身は賃貸だけで暮らしているのですか?
いいえ。代表は遠方に自宅を所有し、日常は会社近くのワンルームで生活しています。
一次資料・確認日
公的資料・関連既存記事の確認日:2026年10月10日。数値例は架空の前提による計算であり、特定物件の相場、将来の予測、代表本人の取引実績を示しません。融資・法律・税務等の個別条件は契約書と専門窓口で確認してください。
執筆/監修
株式会社陸自不動産 小松野美貴哉