第2章 2-8 子どもへ家を残さない選択は可能か?|50代からの資産整理
50代になった自衛官へ~これから「家」をどうする?

始めに結論
50代の親が、子どもに不動産そのものを承継させず、生前に売却して現金等へ整理する選択は可能です。ただし「家を残さない」は「子どもに何も残さない」「相続手続がなくなる」と同じ意味ではありません。誰が将来その家に住みたいか、維持費・管理能力、残債と税金、配偶者の生活、相続人間の権利関係を整理したうえで売却・保有・その他の承継方法を比べてください。
最初の判断|財産の形を変える前に確認する5条件
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判断 |
必ず確認する内容 |
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最大損失額 |
売却に伴う諸費用・税金、住宅ローン残債不足、転居費、贈与等を行う場合の税負担。個別条件がない段階で上限は確定不可 |
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成功条件 |
親の終身に向けた居住・生活資金が確保され、家族の意思と財産の管理方針が整理できる |
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失敗条件 |
売却後に住居がない、手取り不足、権利者の意思不一致、税務手続の取り違え、家族への説明不足 |
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損切り基準 |
将来の居場所と生活資金を確保できないなら売却・贈与契約を先行させない |
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実行しない選択肢 |
居住を継続し管理方針だけ作る、子どもと意向を共有して判断を保留、専門家へ先に相談 |
家を残すことが「贈り物」になるとは限らない
住む予定がない家を相続すると、所有者には固定資産税、保険料、建物修繕、庭木管理、相続登記、遠方への移動、必要に応じた売却手続などの負担が生じます。一方、思い入れのある自宅は家族の居場所として重要な場合もあります。「子どものため」という一言だけで保有・売却の正解は決まりません。
自衛官の家庭では、子どもが離れた地域で暮らし、親も定年退官後に再就職や移住で生活拠点を移す可能性があります。離れた家を維持する時間・交通費・現地管理の担い手を見積もらず「子が継ぐはず」と期待するだけでは、将来の意思決定を子どもへ先送りすることになります。
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確認する問い |
家を保有する理由になる条件 |
売却整理を検討する条件 |
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将来住む人 |
子や親族に明確な居住計画 |
居住予定者がいない・地域が遠い |
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維持する力 |
税・修繕・管理の分担が決まる |
管理の引受人・予算がない |
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住宅の状態 |
継続利用に必要な安全性がある |
大きな修繕や空き家管理が必要 |
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親の生活 |
本人と配偶者が住み続けたい |
退官後の拠点変更が必要 |
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権利と債務 |
所有者、共有者、残債が明確 |
共有・担保・相続上の不一致がある |
選択肢は「相続させるか、させないか」の二択ではない
持ち家は①親が保有し続ける、②生前に売却して住み替え資金・老後資金に充てる、③生前贈与などの承継方法を検討する、④将来の相続に向けて遺言・家族協議を整理する、などの方法があります。ただし生前贈与には贈与税や取得に関わる費用、将来の相続税との関係が生じ得ます。贈与の適否は不動産仲介判断ではなく税理士・弁護士等による確認が必要です。
「相続放棄をしてもらえば家だけ引き継がずに済む」という考えも誤解を招きます。相続放棄は一般に相続全体に関する家庭裁判所での手続であり、特定の家だけを選んで放棄する単純な手段ではありません。生前の家族の約束が自動的に将来の放棄を完成させるわけでもありません。個別の相続権や遺留分等は弁護士・司法書士へ確認してください。
私の場合
不動産は大切な財産ですが、子どもにとって必ずしも必要なものとは限りません。
私自身、不動産を所有し、管理する立場を経験してきました。その経験から、財産を残すことだけでなく、引き継ぐ家族の負担も考える必要があると感じています。
子どもに家を残すかどうかは、親の思いだけで決めず、子どもの希望や将来の生活を踏まえて判断することが大切だと考えています。
現金化を検討する場合|手取りと将来生活費を区別する
相続させる予定の家を生前に売る場合でも、売却代金が全額生活資金になるわけではありません。住宅ローン完済、仲介手数料、登記、測量、片付け、譲渡所得税等を考慮します。税務上の所得計算は単なる売却代金ではなく、取得費・譲渡費用・要件に応じた特例で変わります。
居住用財産を売る際には国税庁 No.3302「マイホームを売ったときの特例」が適用要件を説明しています。譲渡所得の最高3,000万円控除は売却代金から無条件に引かれる数字ではなく、居住実態や過去の特例利用などの確認が必要です。子どもへ渡す現金の扱いを考える場合、贈与税・相続税の問題と混同しないよう税理士へ相談してください。
架空試算|相続させる家の「価値」と親の「現金余力」は異なる
架空の売却価格を2,100万円、住宅ローン一括返済700万円、売却関連費用100万円と仮定します。税金・転居・住み替え費用は別途未算入です。差引1,300万円を子どもへ贈ることが適法・最適・無税になるという説明ではありません。
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項目 |
架空の金額 |
次に判定するもの |
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売却代金 |
2,100万円 |
成約前は確定しない |
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住宅ローン一括返済 |
▲700万円 |
銀行の決済日額を確認 |
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売却関連費用 |
▲100万円 |
見積書・実支出で調整 |
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税・住み替え前の現金 |
1,300万円 |
譲渡所得税・退官後生活資金・転居先 |
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仮に住み替えと生活予備資金へ800万円確保 |
残額500万円 |
所有者の意思・贈与税・将来の必要資金を別途判断 |
売却後の資金を家族へ早急に移転することが目的ではありません。まず親本人・配偶者の生活費、医療や介護に備える資金、家賃や施設費を考え、十分な現金が残るか計算してください。売却先行の計算項目については「家を売る前に手取り額を計算するには?」も参考になります。
子どもの意思確認は「住むか」だけでは足りない
子どもが自宅を引き継ぐ意向を示した場合も、居住予定・所有名義・税負担・修繕予算・ほかの相続人との公平性・遠隔管理の可否を整理します。「相続するつもり」と「維持費や修繕費を支出できる」は別の能力です。希望があるなら、家の状態や維持費を数字で共有し、将来どの時点で再評価するか決めます。
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家族会議で確かめる項目 |
本人・配偶者の確認 |
子ども側の確認 |
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住む希望 |
生涯居住か、退官後に転居か |
何年後に誰が住むか |
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維持管理 |
税・保険・修繕履歴を共有 |
管理者、支払可能予算 |
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権利関係 |
登記・残債・共有者の確認 |
他の相続人との協議可能性 |
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出口 |
売却査定と保有費の比較 |
将来売却する場合の意向 |
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合意の状態 |
決定事項と未定事項を分ける |
意思が変わる前提で見直し日を設定 |
相続時の実務|売却予定でも登記義務を無視できない
相続が発生した後、相続不動産の名義を長く未整理のままにしてよいとは限りません。法務省「相続登記の申請義務化について」は2024年4月1日からの申請義務を案内し、原則として取得を知った日から3年以内の登記と、過去の相続についての経過措置を示しています。具体的な期限は個別の起算日で変わります。
相続人が家を売る際の取得費と取得時期については国税庁 No.3270「相続や贈与によって取得した土地・建物の取得費と取得の時期」が、原則として被相続人の取得費・取得時期を引き継ぐと説明しています。購入時契約書・工事資料等は、家を残すか売るかの決定前から整理すると有益です。固定資産税評価額が当然に取得費になるわけではありません。
相続前に売却して現金の形で残すか、相続後に家を売るかは、税金、居住場所、売却に要する時間、家族の権利関係によって結果が異なります。親の生存中に売却する方が必ず有利とは限りません。相続不動産の登記や共有整理の実務は「相続した不動産は、すぐ売却できる?」、準備の漏れを防ぐ項目は「相続不動産を売却する前の最終チェック」に接続します。
退官前の時間を使う|いきなり売るより先に資産の棚卸し
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時点 |
実施内容 |
判断の出口 |
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退官の数年前 |
所有不動産の登記・残債・修繕・管理・評価資料を整理 |
誰が住み、誰が管理するか共有 |
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退官前 |
家族意向、生活拠点、売却価格の幅を比較 |
売却・保有・承継検討の順序を決める |
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売却を選ぶとき |
最低手取、税務確認、本人居住先、引渡日 |
契約可能性を判定 |
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保有を選ぶとき |
年次管理予算・家族の支援範囲・再評価日 |
無期限放置を防ぐ |
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相続発生後 |
相続人・名義・税務・期限を専門家と確認 |
登記と承継・売却の手続を進める |
転勤・退官後の働き方が変わる場合、不動産を一つの家族の記念品としてだけ考えると、誰かの負担を見落とします。反対に、使う意思のある家を早まって売れば、生活の居場所や将来の選択肢を失う可能性もあります。家を残さない判断は、家族の意思と親の生活を守る観点から慎重に行います。
仲介実務の視点|「処分」を急がせず、残した後の責任まで確認する
自宅売却の必要性は、家族の意思と客観的な負担を比較することで明確になります。「自衛官の不動産売却は『早めの状況判断』が成否を分ける」の基本にも通じます。売却しない場合も、後継管理者・相続人・年間予算・見直し日を整理する作業には意味があります。
財産の承継には登記・法務・税務の各領域があります。不動産会社は物件の市場性や売却条件を調査できますが、相続人の権利や遺言の適法性は弁護士・司法書士、税額や生前贈与・相続税は税理士による検討が必要です。資産整理は「売却の依頼が入ったら着手する業務」ではなく、退官前に家族が判断を共有するための準備として位置付けます。
いったん止めるべき兆候
- 売却後に親本人・配偶者の住む場所、医療・介護費、生活費が確保できない。
- 子どもが家を使いたいか確認せず、親の推測だけで売却・贈与を進める。
- 共有者、担保、税負担、特例適用の条件が未確認である。
- 「相続放棄で家だけ断れる」など法的に不正確な前提で計画している。
- 遠方居住や管理不能の問題を無視し、「子どもなら引き受ける」と決めつける。
2026年給与ワンポイント|退官後の住居費と切り分ける
防衛省「令和8年版防衛白書:自衛官の処遇改善」は、2025年度から手当の新設・増額など給与面を含む処遇改善が実現したことと、2027年度に自衛官独自の給与体系改定を目指す方針を説明しています。改定方針は全員の2026年の年収や個々の退職手当を示すものではありません。住居費は本人の現在の給与明細(階級・号俸・手当等)、実際の定年退官日、再就職後の契約条件で別々に試算し、人事院の一般職俸給表を自衛官給与表として流用しないことが重要です。
無料ワークシート|数字と希望条件を整理する
「50代自衛官のための住まいを考えるワークシート」公式PDFの「20 資産を残す・残さない整理表」で、対象不動産、誰が使うか、保有費、残債、家族の意向、売却後の生活資金、司法書士・税理士への確認事項を一欄ずつ整理してください。
よくある質問(Q&A)
Q1.子どもに家を相続させないよう生前に売却できますか?
本人に処分権限があり、権利・担保・契約上の条件を満たせば、売却は選択肢です。ただし住居確保と税務を事前に確認してください。
Q2.子どもが家を要らないと言ったら相続登記も不要ですか?
相続が発生した場合の登記義務と、家族の生前の希望は別の問題です。相続人や起算日、登記手続を司法書士に確認してください。
Q3.家だけ相続放棄して預貯金だけ受け取れますか?
一般に相続放棄は相続全体についての制度であり、特定の家だけを放棄して他の財産を承継する単純な手続ではありません。弁護士等へ確認してください。
Q4.家を売って現金にすれば子どもへ無税で渡せますか?
売却時の譲渡所得税と現金を移す際の贈与税・将来の相続税は別です。非課税と断定できず、税理士による試算が必要です。
Q5.家族の答えが出なければ、売却を諦めるしかありませんか?
売却を決める必要はありません。管理予算と次回判断日、家族で確認する項目を決め、専門家の助言を得ながら選択肢を保留できます。
根拠資料・確認日
公的制度・一次資料は2026年10月10日に確認。法令、税制、給与・手当、各種制度は公開・更新時に再確認してください。公式資料は各論点の本文にも直接リンクしています。
- 法務省「相続登記の申請義務化について」
- 国税庁 No.3270「相続や贈与によって取得した土地・建物の取得費と取得の時期」
- 国税庁 No.3302「マイホームを売ったときの特例」
- e-Gov法令検索「民法」
- 防衛省「令和8年版防衛白書:自衛官の処遇改善」
執筆/監修 株式会社陸自不動産 小松野美貴哉