第2章 2-6 売り先行と買い先行、退官前の住み替えではどちらか?
50代になった自衛官へ~これから「家」をどうする?

始めに結論
退官前の住み替えで売り先行・買い先行を選ぶ基準は、売却価格の高さではなく「売却代金を新居資金に充てる必要があるか」「旧居と新居の二重負担を何か月維持できるか」「退官・再就職・家族の移動と引渡日が一致するか」です。資金の確定を優先するなら売り先行、新居への移動日が先に確定し、二重負担と融資条件を満たせるなら買い先行が候補です。同時決済は第三の方法ですが、双方の関係者と日程・融資条件をそろえる必要があります。
判断の前提|損失の上限と見送る条件を先に定める
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判断 |
住み替えを実行する前の基準 |
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最大損失額 |
仮住まい・二重住居費・追加引越し・一時借入・手付・契約上の解除負担・価格下振れなどの合計。未契約段階では実額を確定できない |
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成功条件 |
売却の最低手取り、新居取得資金、旧居引渡日、新居入居日、退官後の生活費が同時に成立 |
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失敗条件 |
売却が遅れて二重負担を賄えない、仮住まいがない、金融機関の融資が想定通り下りない |
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損切り基準 |
最低手取りを下回る指値、融資未承認、転居日が確保できない場合は契約前に停止して条件を再設計 |
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実行しない選択肢 |
現宅に住み続ける、新居取得を延期、退官後しばらく賃貸で暮らして再就職地を確認する |
売り先行・買い先行・同時決済の違いは「お金が入る日」で決まる
売り先行では、旧居の売買契約と決済を終えてから新居購入へ進むと、利用可能な手取り額を確定しやすくなります。ただし「買主へ引き渡す日」までに新居が確保できなければ、仮住まいと複数回の引越しが発生します。売買契約の締結日と実際に売却代金を受け取る決済日は違います。手付金を新居購入資金に当然に回せると考えるのは危険です。
買い先行では、先に新居を確保してから旧居を売るため、家族の転校・通勤・退官後の拠点変更を計画しやすい反面、旧居が売れるまでローン・税金・保険・管理費が重なる可能性があります。「売る予定だから新しい融資も下りる」という推測で契約せず、旧居ローンを含めた審査条件を金融機関へ書面で確認します。
同時決済とは、旧居の売却代金で残債を完済すると同時に、新居取得へ資金を接続する手法です。売主・買主・金融機関・司法書士・不動産仲介の関係者が増えます。いずれかの融資実行や決済が遅れれば別の取引にも影響し得るため、単なる「日程を合わせる工夫」として安易に扱えません。
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方法 |
主な利点 |
主な損失リスク |
選ぶ前の確認 |
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売り先行 |
旧居の手取り額が見える |
仮住まい、再引越し、新居選びの時間制約 |
引渡後の居所・引越し代・保管費 |
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買い先行 |
新居と生活拠点を先に確保 |
二重ローン、空室管理、価格下落 |
金融機関審査・耐久可能月数 |
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同時決済 |
売却代金と新居資金の接続 |
一方の決済遅延が他方へ連鎖 |
融資実行日・全契約の解除条項 |
50代自衛官に固有の問題|定年退官・再就職・家族の生活時点が一致しない
現役時代の収入と退官後の再就職収入は連続する保証がありません。退官の月に旧居ローンを払い終える予定でも、住み替え費用・新居ローン審査・年金受給時期まで一致するとは限りません。若年定年後の就職支援制度については防衛省「退職自衛官に対する再就職支援」が案内していますが、職場の所在地・採用時期・賃金は個別事情で異なります。
たとえば本人の再就職地は退官直前まで未確定で、家族は旧居を生活拠点としている場合、本人の退官日だけを理由に家を先に売る判断は危険です。旧居を誰がいつ退去できるのか、子どもの居住期間は残るのか、本人がどの地域で暮らすのかを別々に書き出します。
架空試算①|旧居の成約価格が下がると新居資金はどこまで減るか
以下は市場相場ではなく資金の流れを理解するための架空例です。旧居ローンの決済時一括返済額を1,400万円、売却関連費用を一律90万円と仮定します。税金・引越し代・仮住まい費用等は別です。
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架空成約価格 |
残債完済 |
売却関連費用 |
税等控除前の資金 |
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2,400万円 |
1,400万円 |
90万円 |
910万円 |
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2,100万円 |
1,400万円 |
90万円 |
610万円 |
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1,800万円 |
1,400万円 |
90万円 |
310万円 |
旧居が2,400万円で売れる場合と1,800万円で売れる場合では、新居購入へ使える資金の差は600万円です。新居の売買契約時に600万円の差を埋める金融機関の審査・自己資金がないなら、買い先行の契約は重大な負担になり得ます。査定額と成約額を混同せず、国土交通省「不動産情報ライブラリ」の取引価格情報と現地調査を参考に慎重・中立・楽観の幅を設けます。
売却後に残るお金は、査定価格からローン残高だけを引いた金額ではありません。仲介・登記・測量・撤去・譲渡所得税等を案件ごとに算定します。算式と諸費用の項目は「家を売る前に手取り額を計算するには?」を参照してください。
架空試算②|買い先行の二重負担を月単位で可視化する
旧居ローン月8万円、旧居管理・税保険月換算2万円、新居ローン月10万円、新居管理等3万円と仮定すると、売却までの住居費は月23万円です。旧居売却後の新居住居費は月13万円となります。旧居が売れないため増える負担は月10万円で、6か月なら60万円、12か月なら120万円です。修繕・金利変動・税は単純化した架空値であり、実額の見積りではありません。
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旧居の売却遅延 |
旧居側の追加負担(架空) |
同時に確認する項目 |
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3か月 |
30万円 |
旧居の管理・内覧・販売条件 |
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6か月 |
60万円 |
現金残高・再就職収入 |
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12か月 |
120万円 |
返済継続能力・価格見直し期限 |
金銭面の「最悪ケース」は、二重負担だけではありません。旧居を予定価格で売れず、新居の売買契約上の期限に間に合わない場合は、手付・契約解除や債務不履行の問題も生じ得ます。e-Gov法令検索「民法」の規定と個別契約により要件が異なり、融資不承認だけで契約を無条件に白紙解除できると断定することはできません。
私の場合
私は59歳のとき、長年暮らした自宅を売却しました。
自宅を売却する際に重要なのは、売却後の住まいと生活をどうするかという点です。
特に定年退官を控えた自衛官は、退官後の収入や生活環境の変化も考慮する必要があります。
売り先行か買い先行かを決める際は、売却資金の必要性や新居への入居時期を踏まえ、無理のない住み替え計画を立てることが大切だと考えています。
退官日から逆算する実務工程|3つの契約を同期させる
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検討時点 |
売却の確認 |
購入・生活の確認 |
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退官前の検討段階 |
残債証明、登記・境界、売却価格3案 |
再就職候補地、家族居住年表、融資相談 |
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売却・購入申込前 |
最低手取り額・引渡許容日 |
自己資金・購入諸費用・仮住まい可否 |
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契約締結前 |
旧宅の解除条件・手付・決済期限 |
新宅の融資特約・停止条件・入居日 |
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決済前 |
銀行一括返済手続と抹消登記 |
新居融資実行・司法書士・鍵引渡 |
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決済後 |
税金資料保管、売却収支確定 |
生活拠点と退官後現金収支の更新 |
実務上の混乱を減らすには、金融機関・司法書士と決済可能日を早期照合し、旧居引渡しと新居入居の両方に余裕日数を確保します。移動や手続の負担を考えない「同日なら楽」という決め方は避けます。住宅売買の基本比較は「今の家を売ってから新居を買うべき?」、売却後の資金配分は「相続・離婚・住み替えでは売却後のお金はどう変わる?」も参照してください。
停止条件|住み替えを一度中断すべき5つの兆候
- 新居契約に必要な資金が「まだ売れていない旧居の希望価格」に全面依存している。
- 旧居の売買契約と新居契約で、決済期限または融資特約の整合が取れていない。
- 旧居売却が遅れた場合の二重負担上限を現金で支えられない。
- 仮住まいと引越しの現実的な選択肢がなく、家族の居場所が確定しない。
- 金融機関・司法書士の確認前に、売却代金・ローン完済・登記実行を約束している。
2026年給与ワンポイント|退官後の住居費と切り分ける
防衛省「令和8年版防衛白書:自衛官の処遇改善」は、2025年度から手当の新設・増額など給与面を含む処遇改善が実現したことと、2027年度に自衛官独自の給与体系改定を目指す方針を説明しています。改定方針は全員の2026年の年収や個々の退職手当を示すものではありません。住居費は本人の現在の給与明細(階級・号俸・手当等)、実際の定年退官日、再就職後の契約条件で別々に試算し、人事院の一般職俸給表を自衛官給与表として流用しないことが重要です。
無料ワークシート|数字と希望条件を整理する
「50代自衛官のための住まいを考えるワークシート」公式PDFの「06 売却後居住計画表」で旧居の引渡日、新居入居日、仮住まい候補を一覧化し、「08 売却時期比較表」で価格と決済時期の3案を比較してください。再就職地と日程が未確定なら、空欄を「未定」と記録した上で購入判断を保留します。
よくある質問(Q&A)
Q1.退官前の住み替えでは売り先行が必ず安全ですか?
一律には判断できません。資金の見通しを確定しやすい一方、仮住まい費用や生活上の負担が発生する場合があります。
Q2.新居を先に買う場合、旧居の売却代金を頭金と考えてよいですか?
未決済の売却代金を確定資金として扱わないでください。旧居の売却遅延・価格下落があっても融資・自己資金が成立することを確認します。
Q3.同時決済にすれば仮住まいも二重ローンも必ず避けられますか?
必ずではありません。双方の融資・登記・引渡日程を一致させる必要があり、片方の遅延で他方の契約に影響することがあります。
Q4.売却代金が予想より少ない場合、新居の購入契約を白紙にできますか?
新居契約の解除条件や融資特約次第です。売主との合意なく任意に解除できると考えず、契約前に条件を確認します。
Q5.再就職先が決まらなければ住み替えを見送るべきですか?
居住地域や必要資金が未確定であれば、購入を延期して賃貸で生活拠点を確認する選択肢が合理的です。先に購入を決める必然性はありません。
根拠資料・確認日
公的制度・一次資料は2026年10月10日に確認。法令、税制、給与・手当、各種制度は公開・更新時に再確認してください。公式資料は各論点の本文にも直接リンクしています。
執筆/監修 株式会社陸自不動産 小松野美貴哉