第2章 2-5 相続した実家を売却する前に税金と名義で何を確認するか?
50代になった自衛官へ~これから「家」をどうする?

始めに結論
相続した実家を売る前に、①相続人と現在の登記名義、②相続登記の申請期限、③被相続人の取得費・取得時期、④相続税と売却時の譲渡所得税、⑤空き家特例などの適用条件・期限を別々に確認します。相続登記の完了だけでは税額は決まらず、相続税の納税だけで売却時の譲渡所得税がなくなるわけでもありません。物件調査と名義・税務の専門手続を並行して進めることが重要です。
判断の5条件|相続売却で先に失う可能性のあるもの
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判断軸 |
実務上の確認 |
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最大損失額 |
未確定税額、登記・調査・測量・解体・処分費、価格下振れ、売買契約違反時の負担を合算。個別数字なしに上限断定不可 |
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成功条件 |
相続人・名義・登記・税務期限が整理され、買主への引渡しと申告資金が両立 |
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失敗条件 |
権利者が確定していない、相続人の意思が不一致、特例期限を失念、税資金不足 |
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損切り基準 |
権利関係・資金清算の見通しが付かないまま確定的な契約や高額解体を行わない |
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実行しない選択肢 |
当面管理・保有する、相続人間で分割方針を協議する、司法書士・税理士へ先に照会する |
最初に区別する3つの時計|申告期限と登記期限は別物
相続不動産では、相続を知った日、相続登記を要する日、税務上の特例期限、買主への決済日が互いに異なります。物件を売る予定だから相続登記を後回しにしてよいという判断にはなりません。
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期限・制度 |
一般的な確認ポイント |
一次資料 |
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相続登記 |
2024年4月1日から義務化。原則として取得を知った日等から3年以内。施行前の相続には経過措置があり個別確認 |
法務省「相続登記の申請義務化」 |
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相続税の申告・納税 |
申告が必要な場合、通常は被相続人の死亡を知った日の翌日から10か月以内 |
国税庁 No.4205 |
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相続財産の取得費加算 |
相続税が課税された人など、一定要件と譲渡期限がある |
国税庁 No.3267 |
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被相続人居住用空き家特例 |
建築時期・居住者・利用状況・売却日・売却代金など複数条件がある |
国税庁 No.3306 |
法務省「相続登記の申請義務化について」によると、相続で不動産を取得したことを知った相続人には原則3年以内の相続登記申請義務があります。施行前に生じた相続にも適用されますが、具体的な起算日・猶予期限は事情によって異なるため司法書士へ確認します。正当な理由なく義務に違反した場合の過料に関する説明も公表されています。
国税庁 No.4205「相続税の申告と納税」では、相続税申告が必要な場合の期限を原則として死亡を知った日の翌日から10か月以内としています。相続人間の協議が未了であっても申告上の問題が残り得るため、分割協議の結論を待つだけでは足りません。申告の要否や特例は税理士等へ確認します。
登記名義と売却できる権限を切り分ける
登記事項証明書に亡くなった親の名前が載っている場合、相続人や遺言内容、遺産分割の状況を確認しなければ、誰が売主として所有権移転を実行できるかが整理できません。単独相続なのか共有取得なのか、遺言があるのか、遺産分割協議が成立しているのかを確認します。
複数人で相続した不動産全体を売る場合は、各共有者の売却意思と権利関係を確認する必要があります。共有持分だけを売る行為と不動産全体を売る行為は同じではありません。「代表相続人が一人いるから他の相続人の確認は不要」とは考えません。判断に迷う場合は司法書士または弁護士へ確認します。
相続人の確定に必要な主な資料
- 登記事項証明書・固定資産税納税通知書・名寄帳等で土地建物の所在を確認する。
- 戸籍・除籍・改製原戸籍等を整理し、相続人の範囲を確認する。
- 遺言書の有無、遺産分割協議の進捗、共有持分、他の権利設定を確認する。
- 被相続人の登記上の住所と死亡時の住所、相続人の現住所などの証明書類を確認する。
- 抵当権・仮登記・賃借人・未登記増築の有無を現地と書面で確かめる。
相続登記が終わっていなくても、査定・現地確認・市場調査を行うことは可能です。一方、買主への所有権移転の段階で必要な登記を省略できるわけではありません。売却検討開始と契約可能条件を区別する考え方は「相続した不動産は、すぐ売却できる?」にも整理されています。
税務の第一原則|相続した日から5年とは限らない
国税庁 No.3270「相続や贈与によって取得した土地・建物の取得費と取得の時期」は、相続で取得した土地建物について、原則として被相続人が購入したときの取得費と取得時期を引き継ぐと説明しています。売却した年の1月1日時点の所有期間を判定する際に、相続した日を無条件に起算日とする扱いではありません。
例えば親が20年前に購入した不動産を子が2026年に相続し、同じ年に売却した場合、「相続から1年も経っていない」ことだけを根拠に短期譲渡所得とは判断しません。取得形態や特例等で例外が生じる可能性があるため、契約書や取得時資料に基づく税務判断が必要です。
売却代金ではなく「譲渡所得」を計算する
土地建物の譲渡所得の概念は「譲渡価額-取得費-譲渡費用」です。原則として被相続人が取得したときの購入代金・建築費・購入手数料等を基礎にしますが、建物については減価償却費相当額を差し引きます。国税庁 No.3252「取得費となるもの」とNo.3270「相続取得の取得費」を照合してください。
仲介手数料や一定の契約書印紙代等は譲渡費用として計算対象になり得ますが、固定資産税等の通常の維持費、一般的な修繕費など、何でも譲渡費用へ算入できるわけではありません。支出資料を「取得費候補」「譲渡費用候補」「単なる保有費」「未判定」に分け、税理士等へ判断を依頼する整理が有効です。
取得費資料が残っていないときの対応
売却前に親の購入契約書、工事請負契約書、領収書、購入時の仲介契約書、リフォーム費の記録、登記資料を探索します。建物の減価償却費相当額を計算するため、土地代と建物代を分けられる資料も重要です。相続税評価額・固定資産税評価額を被相続人の購入価格と同一視してはいけません。
国税庁 No.3258「取得費が分からないとき」は、取得費が不明な場合等には売却額の5%相当額を概算取得費として用いる取扱いを説明しています。ただし、5%が常に有利とは限らず、採用時には相続人が支払った登記費用等の取得費算入方法にも注意が必要です。原契約書の探索を怠らず、税理士等と確認します。
架空の数値で見る|取得費の違いが譲渡所得へ影響する
以下は税額を算定する表ではありません。売却額2,000万円、譲渡費用100万円という同じ前提で、取得費が把握できる場合と不明で概算5%を用いる場合を比較する架空例です。各種特例・他の加算項目・課税関係は含めません。
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比較項目 |
取得費が700万円と確認できた場合 |
概算取得費5%を使う場合 |
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売却額 |
2,000万円 |
2,000万円 |
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取得費 |
700万円 |
100万円 |
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譲渡費用(仮) |
100万円 |
100万円 |
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控除前の単純差引 |
1,200万円 |
1,800万円 |
架空計算では差引が600万円異なります。実際の税額、適用税率、特例の有無、建物減価償却額等は別途検討が必要です。「購入価格が分からないから税金はかからない」という認識にも、「5%を使えば必ず得」という認識にも根拠はありません。
相続税と譲渡所得税を混同しない
相続税は相続に伴う財産取得について、譲渡所得の税金は売却で生じた所得について、それぞれ別の取扱いです。相続税の申告・納税を終えていても、後日の売却について譲渡所得の申告・納税を検討する必要が生じます。また、相続税申告が不要であっても、売却時の譲渡所得まで必ず非課税になるわけではありません。
国税庁 No.3267「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」は、相続税を課された人が相続取得財産を一定の期限までに譲渡する場合、相続税額のうち一定額を譲渡資産の取得費に加算できる特例を示しています。譲渡の期限は「相続開始日の翌日から相続税申告期限の翌日以後3年を経過する日まで」といった定めがあり、対象者・財産・申告方法の確認が必要です。
空き家の3,000万円控除|「古い実家なら自動適用」は誤り
国税庁 No.3306「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」は、一定要件の相続空き家の譲渡所得から最高3,000万円を控除する制度を案内しています。2026年10月10日現在の国税庁公表ページは令和9年12月31日までの売却を対象期間として記載していますが、対象家屋・居住状況・売却方法など複数要件があるため、売却時点での法令再確認が必要です。
原則的な家屋の要件には「昭和56年5月31日以前の建築」「区分所有建物でない」「相続開始直前に原則として被相続人以外が住んでいない」等があります。老人ホーム入所等には一定要件の特別な扱いもあるため、死亡時に誰も住んでいなかったというだけで対象外・対象内を断定しません。
2024年1月1日以後の譲渡で、対象家屋・敷地等を取得した相続人が3人以上の場合は、最高控除額が2,000万円となる旨も国税庁が説明しています。一般のマイホーム売却に関するNo.3302「マイホームを売ったときの特例」と相続空き家特例は別制度です。取得費加算との適用関係・重複利用の可否は、税理士に個別確認してください。
家を壊して売るか、古家付きで売るかは税務と市場の両面で決める
建物を解体すれば必ず高値で売れるとは限りません。建物解体費、敷地内の家財・工作物、境界、道路条件、買主の用途、空き家特例の適用方法等を並べて比較します。住宅を壊した後の敷地利用や売却時期は税務特例に関係する可能性があるため、解体業者へ先に発注する前に税務条件を確認することが重要です。
古家付きで現状のまま販売する選択肢、買主負担で解体する契約条件、売主が解体して引き渡す選択肢では、費用負担とリスクが異なります。現況引渡しであっても契約不適合責任の取扱いや告知すべき事項がなくなるわけではなく、契約書の条項確認が必要です。
遠方相続人が売却する場合の実務順序
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局面 |
本人が確認すること |
専門家等と調整すること |
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相続発生後 |
遺言、相続人、物件の一覧 |
司法書士・弁護士:権利関係と分割 |
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調査段階 |
固定資産税、鍵、家財、建物状態 |
不動産会社:現地確認・査定・市場性 |
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税務調査 |
取得費資料、相続税申告の有無 |
税理士:税額・特例・申告期限 |
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販売条件決定 |
売却意思・引渡条件・最低手取 |
不動産会社・共有者:契約条件 |
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契約・決済 |
本人確認、代理権、送金先 |
司法書士・金融機関:登記・決済 |
県外勤務・居住の相続人が長崎県内の不動産を売却する場合も、書類・本人確認・司法書士手続を調整すれば進められるケースがあります。ただし遠方という理由で本人確認や共有者の合意を省略できません。受任可能な代理人の範囲と必要な委任状は案件ごとに確認します。
仲介実務からの補足|法律相談と売却実務を分ける
私は定年退官後、不動産実務に携わり、現役時代とは働き方と生活拠点が変わりました。住宅の立地は、再就職・通勤条件が見える前後で判断が変わり得ます。この経験は居住地判断に関するもので、私自身が相続不動産を取得・売却した体験を意味しません。
相続不動産の売却については、登記・遺産分割・税額の専門判断を不動産仲介実務と混同しない姿勢が必要です。査定、市場調査、販売条件の整理は不動産会社で進め、相続人の範囲や登記は司法書士、争いのある権利関係は弁護士、税額と特例は税理士へ切り分けます。
相続売却の税務論点をさらに詳しく確認するには「相続不動産を売る前に知っておきたい税金・取得費・売却時期」、準備の初動は「相続した不動産は、すぐ売却できる?」、実務上の網羅確認には「相続不動産を売却する前の最終チェック」を参照してください。3記事を既存資産として接続し、本稿は50代自衛官の退官前後と遠方相続の判断に集中します。
契約前に止めるべき7つの赤信号
- 相続人の範囲が確定せず、共有者の売却意思も一致していない。
- 相続登記の申請義務・起算日・期限を確認していない。
- 被相続人の取得費資料を探さず、譲渡所得税を概算していない。
- 相続税の申告期限と売却時の確定申告を混同している。
- 空き家特例の要件確認前に解体や用途変更を進めようとしている。
- 金融機関の抵当権・他の権利関係が未整理で引渡しが確約できない。
- 契約前に登記費・税金・測量・解体・家財処分の資金上限を確認していない。
2026年給与ワンポイント|退官後の住居費と切り分ける
防衛省「令和8年版防衛白書:自衛官の処遇改善」は、2025年度から手当の新設・増額など給与面を含む処遇改善が実現したことと、2027年度に自衛官独自の給与体系改定を目指す方針を説明しています。改定方針は全員の2026年の年収や個々の退職手当を示すものではありません。住居費は本人の現在の給与明細(階級・号俸・手当等)、実際の定年退官日、再就職後の契約条件で別々に試算し、人事院の一般職俸給表を自衛官給与表として流用しないことが重要です。
無料ワークシート|数字と希望条件を整理する
「50代自衛官のための住まいを考えるワークシート」(公式PDF)の「20 資産を残す・残さない整理表」に、相続人・名義、物件管理、売却希望時期、必要な専門家、取得費資料の有無、税務期限を記載してください。税額の計算そのものは税理士等へ依頼する前提で、未確認事項の共有に使用します。
よくある質問(Q&A)
Q1.相続登記を済ませていなくても実家の売却相談はできますか?
査定・市場調査の相談は可能です。ただし売主名義と所有権移転に必要な手続を整理する必要があるため、司法書士等に相談してください。
Q2.相続から1年以内に売ると必ず短期譲渡所得になりますか?
いいえ。原則として被相続人の取得時期を引き継ぎます。国税庁 No.3270で原則を確認し、個別の税務判断は税理士等へ照会してください。
Q3.親の購入価格が分からないと税金は計算できませんか?
資料探索が第一ですが、取得費不明の場合等には売却額の5%相当額を概算取得費とする取扱いがあります。国税庁 No.3258を参照してください。
Q4.相続税を納めていれば、実家を売った後の税金は不要ですか?
別の税目です。相続税の課税と譲渡所得課税を分け、取得費加算や空き家特例の適用可能性を含めて確認します。
Q5.相続した空き家を売れば3,000万円控除を必ず受けられますか?
必ず受けられるわけではありません。建築年月、相続人の人数、相続前の居住実態、譲渡期限、譲渡方法等の要件があります。国税庁 No.3306で確認してください。
根拠資料・確認日
公的制度・一次資料は2026年10月10日に確認。法令、税制、給与・手当、各種制度は公開・更新時に再確認してください。公式資料は各論点の本文にも直接リンクしています。
- 法務省「相続登記の申請義務化について」(2026年4月1日更新)
- 国税庁 No.3270「相続や贈与によって取得した土地・建物の取得費と取得の時期」
- 国税庁 No.3252「取得費となるもの」
- 国税庁 No.3258「取得費が分からないとき」
- 国税庁 No.3267「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」
- 国税庁 No.3306「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」
- 国税庁 No.4205「相続税の申告と納税」
- 防衛省「令和8年版防衛白書:自衛官の処遇改善」
執筆/監修 株式会社陸自不動産 小松野美貴哉