第2章 2-2 住宅ローン残債がある自宅を、退官前に売却できるか?
50代になった自衛官へ~これから「家」をどうする?

始めに結論
住宅ローン返済中でも自宅売却の検討と査定は可能です。ただし一般的な売買では、決済・引渡しに合わせてローンを完済し、抵当権を抹消できる状態にする必要があります。売却代金が残債と諸費用に足りない場合は、自己資金または金融機関との合意ある調整方法が確認できるまで、通常の引渡しが可能と判断してはいけません。
先に確認する5条件|赤字売却を避けるための基準
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項目 |
判定と停止条件 |
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最大損失額 |
一括返済不足額+仲介・登記・契約・処分等費用+契約不履行時の負担。実際の数字・契約条項から算定 |
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成功条件 |
銀行の一括返済・抵当権抹消、売却代金入金、所有権移転が同日段取りとして成立 |
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失敗条件 |
返済不足の補填ができない、抵当権抹消承諾がない、契約期限までに資金が整わない |
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損切り基準 |
完済資金に穴があるまま確定的な引渡し約束をしない。銀行確認前の安易な価格値下げを停止 |
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実行しない選択肢 |
売却せず返済継続、売却時期変更、条件見直し、金融機関と別途協議 |
抵当権が残っていても売却相談はできるが、引渡しは別問題
売却検討の段階では、ローンが残ること自体は査定や市場調査の障害ではありません。問題は買主へ所有権を移転する決済時です。通常の取引では買主が抵当権の負担を受けない状態で所有権を取得するよう、売主側が一括返済と抹消登記の手順を整えます。
抵当権は借入の担保として設定されるため、住宅ローンを返済するだけで登記が自動的に消えるわけではありません。完済後に金融機関側から必要書類を受領し、司法書士等と登記手続を行うのが一般的です。契約の解除条件はe-Gov法令検索「民法」と各売買契約書の文言で確認します。抵当権の取扱いは金融機関と登記専門家への照会が欠かせません。
「ローン残高」と「当日の一括返済額」は同じではない
ネットバンキングに表示される残債だけでは、決済日に必要となる支払額を確定できません。利息の日割計算、繰上返済の手数料、保証関係の精算、返済実行日時などは金融機関・契約商品によって異なります。金融機関には決済予定日を提示し、一括返済予定額と必要手続・書類準備の期限を照会してください。
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照会先 |
確認すべき情報 |
証拠として残す書類 |
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借入先金融機関 |
決済日当日の完済額・期限・入金先・解除書類 |
一括返済試算表、手続案内 |
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司法書士 |
住所氏名変更登記の有無、抵当権抹消、所有権移転の順序 |
登記費用見積、必要書類一覧 |
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不動産会社 |
売却見込、仲介手数料、測量・修繕・処分 |
資金計画書、見積書 |
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税理士・税務署 |
取得費・譲渡費用・税務特例 |
取得時契約書、譲渡関連資料 |
手取りと完済の判定を分ける計算式
資金計画は「(1)売却代金で担保ローンを消せるか」と「(2)売却後に現金が残るか」を別の列で判定します。税務上の譲渡所得は別計算です。ローン返済額をそのまま譲渡所得の取得費と誤認してはいけません。国税庁 No.3252「取得費となるもの」は、購入代金等を基礎に、建物については減価償却費相当額を控除する取扱いを説明しています。
資金収支=想定売却代金-決済日に必要な一括返済額-売却関連費用。税務上の譲渡所得=譲渡価額-取得費-譲渡費用(特例・控除の前提となる概念)。両者は目的も計算項目も異なります。
架空例で比較|売却額が残債を上回っても赤字になる
以下は架空の自宅売却例です。一括返済額を2,150万円、売却関連費用を120万円と仮定します。税・引越し・一時借入費用は含めず、売却関連費用は手数料の公定額を示すものではありません。
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売却価格 |
一括返済 |
売却費用 |
差引資金 |
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2,500万円 |
2,150万円 |
120万円 |
+230万円 |
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2,300万円 |
2,150万円 |
120万円 |
+30万円 |
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2,200万円 |
2,150万円 |
120万円 |
▲70万円 |
2,200万円での売却は「借入残高より50万円高く売れる」ものの、費用を含めると70万円の不足となります。差額を自己資金で補えるか、銀行と調整した上で抵当権抹消が実現できるかが問題です。買主から受け取った売却代金全額を自分の自由な資金として動かすことはできません。
売却額が2,300万円の場合の差引30万円も、納税・住み替え費用を控除する前の試算です。住宅ローンを完済できる取引でも、退官後の生活資金が十分とは限りません。売却にかかる費用を詳しく整理する際は「家を売る前に手取り額を計算するには?」を参照してください。
オーバーローンの場合に取れる手順と取れない手順
売却代金だけで完済できない場合の基本的な選択肢は、自己資金による不足分の充当、売却希望価格や時期の見直し、金融機関との事前協議です。金融機関の承諾なく抵当権が消えると考えたり、売却契約締結後に不足額の調達を考え始めたりすることは危険です。いわゆる任意売却には債権者の同意等が必要で、通常の売買とは手続と制約が異なります。
売却額の不足を別の無担保借入で埋める案は、月々の返済負担・金利・生活費を増やす場合があります。借入条件未確認のまま「短期間で埋められる」と約束してはいけません。また、住宅ローン返済が滞っている場合の金融機関対応は事案によって異なるため、支払状況を隠さず事前に相談する必要があります。
実務からの補足|自宅売却経験とローンの有無を混同しない
私は59歳で長く住んだ自宅を売却しました。売るか否かの判断は、売却後にどこで暮らすかという問題と切り離せません。ただし、私自身のその売却時に住宅ローンがいくら残っていたかは、設計図で確認されていない情報です。自身の経験談を「多額の残債があった」「手出しなしで完済できた」といった実例に作り替えることはしません。
住宅ローン返済中の売却は、個人の成功談ではなく、金融機関の書面・決済手順・資金収支の一致で可否を判断します。「住宅ローン返済中でも転勤を理由に家を売却できる?」で売却可否の基本を確認し、住み替え日程まで重なる場合は「今の家を売ってから新居を買うべき?」も参照してください。
売却契約前から決済日までの作業順序
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段階 |
資金・権利の確認 |
進行可否の判断 |
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査定前 |
登記事項証明書、名義、抵当権、ローン残高 |
書面取得と調査は可能 |
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売出前 |
成約価格3案、一括返済試算、費用見積 |
不足時の解消策があるか確認 |
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売買契約前 |
銀行の事前協議、決済日と抹消実務 |
資金穴が残れば通常条件での契約を保留 |
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本審査・決済調整 |
買主融資、司法書士、銀行へ日程共有 |
日付・書類・送金の整合 |
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決済日 |
代金着金→完済資金の支払→登記書類確認 |
抵当権抹消と移転登記を段取り |
売主の立場から見れば、買主が住宅ローンの本審査を利用する場合、融資実行日や司法書士の書類確認が決済に直結します。手付金の入金と売買代金全額の入金は異なるため、決済完了前に金融機関からの完済額を再確認してください。
登記・税務・融資の役割を分け、確認漏れを防ぐ
不動産会社は価格査定・必要な販売条件・売却資金計画を整理できます。しかし、銀行の抹消承諾を代理で決定できず、司法書士の登記判断や税理士の税額計算も代替しません。銀行には一括返済、司法書士には移転・抹消、税理士には譲渡所得を確認し、四者の情報が一致しているか照合します。
早期に確認すべき赤信号は、売却価格を下げても完済差額を補えない、登記名義人が一致しない、共有者の合意が取れない、抵当権が複数残る、決済日に必要書類が揃わない、といった状態です。赤信号がある場合、契約締結後の修正より先に原因を特定する必要があります。
売却の可否を決める実行チェック
- 金融機関から決済予定日の一括返済額を書面で取得した。
- 想定成約価格の最低案でも不足額を説明できる。
- 抵当権抹消と所有権移転の担当司法書士・日程を確認した。
- 住み替え費用・税金等を別途確保できる。
- 不足が解消できなければ、売却条件を止めて銀行と再協議する。
2026年給与ワンポイント|退官後の住居費と切り分ける
防衛省「令和8年版防衛白書:自衛官の処遇改善」は、2025年度から手当の新設・増額など給与面を含む処遇改善が実現したことと、2027年度に自衛官独自の給与体系改定を目指す方針を説明しています。改定方針は全員の2026年の年収や個々の退職手当を示すものではありません。住居費は本人の現在の給与明細(階級・号俸・手当等)、実際の定年退官日、再就職後の契約条件で別々に試算し、人事院の一般職俸給表を自衛官給与表として流用しないことが重要です。
無料ワークシート|数字と希望条件を整理する
「50代自衛官のための住まいを考えるワークシート」(公式PDF)の「07 住宅ローン残債確認表」と「08 売却時期比較表」を使い、金融機関の正式な一括返済額、査定価格3案、諸費用、資金不足の補填方法、退官日を同じ一覧で確認してください。
よくある質問(Q&A)
Q1.住宅ローン残債があっても査定を依頼できますか?
依頼できます。査定と市場調査は可能ですが、売却契約と抵当権抹消の可否は別に確認する必要があります。
Q2.売却代金がローン残高より少ない場合でも売れますか?
不足額を自己資金で補う、または金融機関と必要な調整が成立する場合には可能性があります。銀行の承諾なしに通常の引渡しができるとは限りません。
Q3.ローンを完済したら抵当権は自動的に消えますか?
消えません。金融機関から必要書類を受領して抵当権抹消登記を行う必要があります。司法書士等に手続を確認します。
Q4.残高証明に表示された金額だけ用意すれば足りますか?
決済日時点の利息・手数料・手続上の清算が加わる場合があります。決済予定日を伝え、一括返済予定額を金融機関に確認します。
Q5.売却益の税金は「売却代金-ローン残債」で計算しますか?
いいえ。譲渡所得の計算は取得費・譲渡費用等を基礎に行い、ローン残債と異なります。国税庁 No.3252を参照し、税額は税理士等へ確認してください。
根拠資料・確認日
公的制度・一次資料は2026年10月10日に確認。法令、税制、給与・手当、各種制度は公開・更新時に再確認してください。公式資料は各論点の本文にも直接リンクしています。
執筆/監修 株式会社陸自不動産 小松野美貴哉