⑦ 諸経費ローンとオーバーローン|借入残高が市場価格を上回る仕組み
自衛官の不動産投資
諸経費ローンとオーバーローン|借入残高が市場価格を上回る仕組み
初めに結論
フルローンとオーバーローンは同じ意味ではありません。一般にフルローンは物件価格の全額を借りる形、オーバーローンは物件価格を超えて購入諸経費等まで借りる形を指します。重要なのは借りられる金額ではなく、売却時に回収できる金額です。融資承認だけで販売価格の妥当性を判断してはいけません。
「自己資金を使わずに不動産を買えるなら、手元に現金を残せるので安全ではないか」「登記費用や融資手数料まで借りられるなら、その方が資金効率は良いのではないか」。
確かに、自己資金を温存できることには一定の利点があります。予備資金を残せれば、空室、設備故障、修繕などへの対応力を確保できます。
一方、借入額が増えれば借入元本も増え、同じ金利・返済期間であれば支払利息の総額も増えます。さらに、購入諸経費として支払った金額が、そのまま物件の市場価格へ上乗せされるわけではありません。
自衛官が投資用ワンルームマンションなどを購入する場合も、物件価格と総事業費を分け、返済予定表と現実的な売却価格から「今売ればいくら不足するのか」まで購入前に確認することが重要です。
物件価格と総事業費を分ける
不動産購入では「物件価格」と「購入のために必要となる総額」を分けて考える必要があります。
たとえば販売価格2,000万円の投資マンションを購入する場合でも、支払う可能性がある費用は物件代金だけではありません。
案件によって、
・仲介手数料
・登記関連費用
・融資手数料
・保証料
・印紙税
・不動産取得税
・火災保険料、地震保険料
・管理準備金等
が発生する場合があります。
したがって、
総事業費=物件価格+実際に必要となる購入諸経費
として確認します。
重要なのは、「諸経費は物件価格の一律○%」と固定することではありません。
売主から直接購入するのか、仲介会社を利用するのか、融資商品は何か、登記内容はどうなるのかによって費用構造が変わります。
購入前には見積書を取得し、項目ごとに積み上げてください。
登記・融資手数料・保証料・税・保険・仲介手数料を積み上げる
購入諸経費は一括して概算するより、支払先と費用の性質を確認する方が出口計算の精度を高められます。
国税庁も、譲渡所得を計算する際の「取得費」について、購入代金だけでなく購入手数料、一定の登録免許税、不動産取得税、印紙税などが含まれる場合があると説明しています。
ただし、税務上の「取得費」と不動産市場での「市場価値」は別の概念です。
税務計算上取得費へ含められる支出であっても、その支出額が売却価格へ同額上乗せされるわけではありません。
売主物件と仲介物件では費用構造が異なる
すべての不動産取引で同じ購入諸経費が発生するわけではありません。
売主から直接購入する取引と、宅地建物取引業者が仲介する取引では、仲介手数料の有無などが異なります。
国土交通省は、不動産会社の仲介によって契約が成立した場合に受領できる仲介手数料について、法令に基づく告示で上限額が定められていると案内しています。
したがって、インターネット上の「不動産購入諸経費は○%」という数字だけで判断せず、自分が購入する取引形態に合わせて確認する必要があります。
販売価格に含まれる利益や販売費は開示資料から判断する
販売会社が不動産を販売する場合、販売価格には事業運営に必要な費用や利益が反映されます。
販売会社が利益を得ること自体は通常の事業活動です。
問題は、
販売会社が利益を得ているかどうかではなく、自分が支払う販売価格が物件の収益力や市場価格と釣り合っているか
という点です。
事業者利益について根拠のない割合を推測する必要はありません。
確認すべきなのは、
・周辺の中古成約価格
・現行賃料
・周辺賃料
・NOI
・投資家が求める利回り
・同種物件の取引価格
です。
国土交通省の不動産情報ライブラリでは、不動産取引価格情報などを確認できます。
購入諸経費は売却価格へ自動加算されない
購入時に300万円の諸経費を支払ったから、売却時に物件価格へ300万円を上乗せできる、という関係にはなりません。
たとえば登記関連費用や融資手数料は、物件を取得するために必要となる支出であっても、買主が評価する建物の収益力そのものを300万円増加させる支出ではありません。
投資用不動産の買主は、
・賃料
・NOI
・築年数
・建物状態
・賃貸需要
・周辺取引価格
・融資環境
などから購入価格を判断します。
購入者側が「総額でいくら使ったか」と、中古市場が「いくらで買うか」は分けて考える必要があります。
フルローンとオーバーローンを区別する
不動産投資では、「フルローン」と「オーバーローン」という言葉が使われます。
一般的には次のように整理できます。
フルローン
物件価格の全額を借り入れる形です。
物件価格2,000万円に対して、2,000万円を借りるイメージです。
オーバーローン
物件価格を超える金額を借り入れる形を指す場合があります。
物件価格に加えて、融資対象として認められた購入諸経費などまで借り入れれば、購入時点の借入額が物件価格を上回る場合があります。
したがって、
頭金ゼロ=必ずオーバーローン
ではありません。
物件価格と同額の借入れなのか、物件価格を超えた借入れなのかを分けて確認します。
借入元本の増加は総支払利息へ影響する
借入額を増やせば、同じ金利・同じ返済期間で比較した場合、支払う利息の総額も増えます。
つまり、諸経費を自己資金で支払う場合と、諸経費まで借りる場合では、購入時の手元資金だけを比較しても十分ではありません。
比較したいのは、
手元に残る現金
と、
増加する借入元本+増加する利息+売却時の不足額
です。
なお、融資比率が高い場合の金利や融資条件は金融機関や商品によって異なります。
「諸経費まで借りれば必ず金利が高くなる」など、一律には判断できません。
正式な融資条件書で確認してください。
返済初期の元金残高を返済予定表で確認する
ローン返済を始めれば、毎月の返済額すべてが元金から減るわけではありません。
一般的な元利均等返済では、毎月の返済額に元金部分と利息部分が含まれます。
購入から数年後に売却する可能性があるなら、
「5年間返済したから、返済額×60回分だけ借金が減っている」
とは計算できません。
金融機関から交付される返済予定表を確認し、
・1年後
・3年後
・5年後
・10年後
など、自分が売却を検討する可能性のある時点の予定残高を確認してください。
購入時点で想定売却不足額を計算する
購入前に必ず確認したい式があります。
想定売却不足額=ローン残高+売却費用-現実的な売却価格
たとえば計算結果が500万円なら、単純な概算上、売却する際に500万円程度の不足が生じる可能性を示します。
ただし、計算では基準日をそろえる必要があります。
ローン残高
返済予定表の同じ基準日を使用します。
現実的な売却価格
同じ時点を想定した査定や市場データを使います。
売却費用
仲介手数料、登記関係費用など、その案件で必要となる費用を積み上げます。
将来価格を正確に予測することはできません。
そのため、
「将来○○万円で必ず売れる」
と決めるのではなく、複数条件で試算する方法が重要です。
購入前に確認する最大損失額と停止条件
不動産投資では、期待利益だけではなく「最大でどこまで負担できるか」を先に決めます。
購入前には少なくとも、
最大損失額:自分が許容できる自己資金負担額
成功条件:想定した収支・予備資金・出口条件を満たすこと
失敗条件:赤字、修繕、金利、売却不足額などが許容範囲を超えること
損切り基準:保有継続より売却した方が合理的になる条件
実行しない選択肢:条件を説明できなければ購入を見送る
まで決めておくことが重要です。
特に、
想定売却不足額-売却時に投入できる予備資金
の差額を自分自身で説明できない場合、契約を急ぐべきではありません。
購入しない判断も正式な投資判断です。
購入費用整理表
| 費用項目 | 支払先・性質 | 融資対象の確認 | 売却時の回収可否 |
|---|---|---|---|
| 物件代金 | 売主へ支払う購入価格 | 金融機関へ確認 | 市場価格として評価されるが購入額保証なし |
| 仲介手数料 | 仲介業者への報酬 | 金融機関へ確認 | 原則として同額が売却価格へ加算されるものではない |
| 登記関連費用 | 登録免許税・司法書士費用等 | 金融機関へ確認 | 市場価格へ同額加算されるものではない |
| 融資手数料 | 金融機関等への融資関連費用 | 融資条件書で確認 | 市場価格へ同額加算されるものではない |
| 保証料 | 保証制度利用時等 | 商品ごとに確認 | 市場価格へ同額加算されるものではない |
| 印紙税 | 課税文書に対する税 | 融資対象を確認 | 市場価格とは別 |
| 不動産取得税 | 不動産取得時の税 | 融資対象を確認 | 市場価格とは別 |
| 火災・地震保険 | 保険会社への保険料 | 融資条件を確認 | 保険契約の取扱いを個別確認 |
| 管理準備金等 | マンション等で発生する場合 | 案件ごとに確認 | 契約・管理規約を確認 |
※すべての案件で全項目が発生するわけではありません。見積書、売買契約、重要事項説明、融資条件等を基に実額を確認してください。
購入前の出口確認シート
□ 物件価格はいくらか
□ 購入諸経費を項目ごとに確認したか
□ 総事業費はいくらか
□ 自己資金はいくらか
□ 借入元本はいくらか
□ フルローンかオーバーローンかを区別したか
□ 返済予定表を受け取ったか
□ 3年後・5年後・10年後のローン残高を確認したか
□ 現在の中古成約相場を確認したか
□ 収益力から価格を検証したか
□ 売却費用を概算したか
□ 想定売却不足額を計算したか
□ 不足額を自己資金で補えるか確認したか
□ 補えない場合の損切り基準を決めたか
FAQ
Q. 諸経費も借りられるなら現金を残した方が安全ですか。
手元資金を残せることには利点がありますが、それだけで安全とは判断できません。
空室や修繕へ使える現金を残すことは、賃貸経営上の備えになります。
一方、借入元本が増えれば、同じ金利・返済期間なら総支払利息も増えます。また、購入諸経費が売却価格へ同額反映されるとは限らないため、売却時の不足額が大きくなる可能性があります。
残せる現金と増加する負債の両方を比較してください。
Q. 頭金ゼロならオーバーローンですか。
頭金ゼロだけでオーバーローンとは判断できません。
一般的に、物件価格と同額を借りる場合はフルローン、物件価格を超える金額まで借りる場合はオーバーローンと呼ばれる場合があります。
重要なのは名称ではなく、
借入総額-現実的な市場価格
がどの程度なのかを確認することです。
Q. 販売会社の利益が含まれる物件は買ってはいけませんか。
販売会社の利益が含まれているという理由だけで、購入すべきでないとは判断できません。
営利企業が商品を販売して利益を得ること自体は通常の事業活動です。
確認すべきなのは販売価格の妥当性です。
周辺中古成約価格、賃料、NOI、期待利回り、建物状態、融資条件などから、自分自身で価格を検証してください。
本章のまとめ
-
物件価格と、購入諸経費を含む総事業費は分けて確認する必要があります。
-
諸経費まで借りれば手元資金を残せる一方、借入元本と支払利息が増える可能性があります。
-
フルローンとオーバーローンを区別し、実際の借入総額を確認する必要があります。
-
途中売却を想定する場合は、返済予定表から将来時点のローン残高を確認します。
-
購入前に「ローン残高+売却費用-現実的な売却価格」で想定売却不足額を計算し、許容できない場合は購入を見送る判断が必要です。
次章案内
第8章では、買主が見つかっても売却決済を完了できない状態と抵当権抹消を扱います。
投資物件を広告へ出して買主が見つかっても、売却代金だけでローンを完済できず、抵当権を抹消できなければ通常の売却手続を完了できない場合があります。
次章では、オーバーローン状態からの売却、売却不足額、損切り、任意売却、保有継続の判断を整理します。
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『公務員はなぜマンション投資で狙われるのか?: あなたが狙われる理由、投資マンション営業の裏側』|Amazon
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自衛官・公務員が投資マンション営業を受けた際、融資可能額だけで判断せず、販売価格、借入れ、収支、サブリース、出口まで自分自身で検証するための学習資料です。
関連書籍
『再就職で満足しているのか?: 勝てない場所で消耗するな。再起動せよ。』|Amazon
https://www.amazon.co.jp/dp/B0FC24B4ZT
自衛官が現職中から退職後の働き方、収入源、資産形成、人生設計について考えるための学習資料です。特定の不動産投資や投資成果を保証するものではありません。
関連講座
『自衛官(公務員)の為の不動産投資教本〖全37動画 プレミアム版〗』|コエテコカレッジ byGMO
https://college.coeteco.jp/live/lj6c7x79
自衛官・公務員が不動産投資の価格、借入れ、収支、リスク、出口などを学び、自分自身で投資判断を行うための知識習得を目的とした講座です。特定物件の購入や投資成果を保証するものではありません。
参考資料
金融庁「投資用不動産向け融資に関するアンケート調査結果について」
https://www.fsa.go.jp/news/30/20190328.html
金融庁は、投資用不動産向け融資について、金融機関の融資規模や管理態勢等を横断的に調査しています。
国土交通省「消費者の皆様向け・不動産取引に関するお知らせ」
https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/1_6_bf_000013.html
不動産売買における仲介手数料の基本的な考え方や上限額等を確認できます。
国税庁「No.3252 取得費となるもの」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3252.htm
土地・建物の譲渡所得を計算する際の取得費について、購入代金、購入手数料、一定の税・費用等の取扱いが示されています。
国土交通省「不動産情報ライブラリ」
https://www.reinfolib.mlit.go.jp/realEstatePrices/
不動産取引価格情報等を使い、市場での取引価格を確認する際の参考資料として利用できます。
確認日:2026年9月2日
著者紹介
株式会社陸自不動産 代表取締役 小松野美貴哉
宅地建物取引士
自衛官としての勤務経験、自らの不動産投資経験、不動産取引の実務経験を踏まえ、自衛官・公務員が融資可能額だけに判断を委ねず、価格、借入残高、収支、最大損失、出口まで自分自身で確認するための情報を発信しています。
免責事項
本記事は、不動産購入時の物件価格、購入諸経費、フルローン、オーバーローン、借入残高、売却不足額について一般的な資金計画と確認方法を説明することを目的としています。
特定の金融機関による融資承認、適用金利、融資比率、税額、諸費用、査定額、将来の売却価格または投資成果を保証するものではありません。
実際に発生する購入諸経費や売却費用は、物件、契約形態、融資商品等によって異なります。
融資については金融機関へ、税務については税務署または税理士等へ、登記については司法書士へ、不動産価格・契約・売却については宅地建物取引業者等へ個別にご確認ください。
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