⑥ 投資物件の価格は収益力から判断する|利回りとNOIの基礎
自衛官の不動産投資
投資物件の価格は収益力から判断する|利回りとNOIの基礎
初めに結論
投資用不動産では、販売価格だけではなく、その物件が生み出す収益力から価格を検証する必要があります。表面利回りは入口の指標、NOIは運営費を控除した収益力、収益価格はNOIと還元利回りから検討する参考値です。最終判断では周辺取引価格、築年数、修繕、賃貸需要、融資条件も併せて確認します。
「販売価格2,000万円、表面利回り6%」と書かれた投資物件を見たとき、その2,000万円が高いのか安いのか、自分で説明できるでしょうか。
不動産投資では、販売会社が提示した価格をそのまま受け入れるのではなく、賃料から物件の収益力を確認する視点が重要です。ただし、満室想定の募集賃料と実際の成約賃料、サブリース利用時の所有者受取賃料は分けて考えなければなりません。
さらに、管理費、修繕積立金、固定資産税、保険料、空室損失などを反映してNOIを確認します。本章では、表面利回り、NOI、収益価格を順番に計算し、最後に周辺取引価格と照合する方法を整理します。
自宅と投資物件では価格判断の軸が異なる
投資物件では「自分が住みたいか」だけではなく、第三者へ貸した場合にどの程度の収益を生むかが重要な価格判断材料になります。
自宅であれば、
・勤務先への距離
・学校区
・間取り
・生活動線
・家族の希望
・周辺環境
など、購入者本人にとっての利用価値が大きな判断材料になります。
一方、投資用不動産を購入する投資家は、
・年間賃料
・空室率
・運営費
・修繕
・賃貸需要
・期待する利回り
・将来の売却可能性
などから価格を検討します。
国土交通省の不動産鑑定評価基準でも、収益還元法は不動産が将来生み出すと期待される純収益を基礎として収益価格を求める手法として位置付けられています。
表面利回りは年間総賃料を購入価格で割る
表面利回りは投資物件を見る最初の指標ですが、実際に所有者へ残る利益率ではありません。
計算式は次のとおりです。
表面利回り=年間総賃料÷購入価格×100
たとえば、販売価格2,000万円、月額賃料10万円の場合、
10万円×12か月=120万円
120万円÷2,000万円×100
= 表面利回り6.0%
となります。
しかし、120万円すべてが所有者の利益になるわけではありません。
管理費、修繕積立金、固定資産税、保険料、空室などを考慮していないからです。
したがって、
表面利回り6%=年間6%の利益が残る
という意味ではありません。
NOIは賃料等収入から空室損失・運営費用を控除する
NOIは、物件が実際の賃貸運営からどの程度の収益を生み出すのかを見るための重要な指標です。
NOIは一般に「Net Operating Income」の略で、日本語では純営業収益などと表現されます。
本章では投資初心者向けに、次の式で整理します。
NOI=賃料等収入-空室損失-運営費用
確認する主な項目は、
・実際の賃料収入
・空室による減収
・管理費
・修繕積立金
・固定資産税等
・保険料
・賃貸管理に必要な費用
などです。
国土交通省の不動産鑑定評価基準でも、純収益は総収益から総費用を控除して求める考え方が示されています。
収益価格はNOIを還元利回りで割って検討する
収益価格は、物件の純収益と投資家が求める還元利回りから価格を考える方法です。
簡易的な直接還元法では、
収益価格の参考値=NOI÷還元利回り
という形で計算できます。
国土交通省資料でも、直接還元法について、
収益価格=一期間の純収益÷還元利回り
という基本的な考え方が示されています。
ただし、還元利回りを「どの物件でも5%」などと固定してはいけません。
還元利回りは、
・地域
・用途
・築年数
・建物状態
・賃貸需要
・空室リスク
・取引時点
・投資家需要
などによって異なります。
簡易計算は価格検討の材料であり、不動産鑑定士が行う正式な鑑定評価ではありません。
月10万円と所有者受取8万5,000円では価格判断が変わる
サブリース付き投資物件などでは、入居者が支払う賃料と所有者が実際に受け取る賃料が異なる場合があります。
入居者賃料を基準にした場合
月額賃料:10万円
10万円×12か月
= 年間120万円
仮に5%で単純逆算すると、
120万円÷0.05
= 2,400万円
です。
所有者受取賃料を基準にした場合
月額受取賃料:8万5,000円
8万5,000円×12か月
= 年間102万円
同じ5%で単純逆算すると、
102万円÷0.05
= 2,040万円
です。
差額は、
2,400万円-2,040万円
= 360万円
となります。
同じ物件でも、どの賃料を基礎に置くかだけで単純逆算結果に360万円の差が生じます。
ただし、年間102万円はNOIではありません。
102万円から管理費、修繕積立金、固定資産税、保険料、空室損失などを控除した後の数値を使って、NOIベースの収益価格を検討する必要があります。
管理費・修繕積立金・税・保険・空室を反映する
賃料収入だけで投資物件の収益力を判断すると、実際の収支より良く見える場合があります。
たとえば年間受取賃料が102万円でも、
102万円
-空室損失
-管理費
-修繕積立金
-固定資産税等
-保険料
-その他の運営費用
としてNOIを確認します。
実際の金額は物件ごとに異なるため、本章では資料に存在しない経費額を推測して計算しません。
購入を検討する物件では、販売会社の収支表だけではなく、管理規約、重要事項調査報告書、固定資産税資料、賃貸管理契約などから実額を確認してください。
募集賃料ではなく成約賃料と現行賃料を確認する
ポータルサイトに掲載されている募集賃料だけでは、実際に入居者が契約する賃料を判断できません。
確認したい賃料は少なくとも三つあります。
-
現在の入居者が支払っている賃料
-
周辺で募集されている賃料
-
確認可能な周辺の成約賃料
募集賃料が月10万円でも、実際の成約水準が月9万円前後なら、10万円を将来収支の前提に固定するのは慎重に考える必要があります。
投資用不動産の価格検証では、「現在本当に入っている賃料」と「次の入居者でも維持できる可能性のある賃料」を分けて考えます。
築年数は賃料・修繕・融資期間へ影響する
築年数だけで物件の良否は決まりませんが、収益計算から外してよい項目でもありません。
建物が古くなれば、
・設備交換
・給排水設備
・外壁や屋根
・共用部分
・室内設備
などの修繕負担が増える可能性があります。
また、築年数は金融機関が設定する融資期間などへ影響する場合があります。
築浅だから必ず高値を維持するわけでも、築古だから投資対象にならないわけでもありません。
重要なのは、価格、賃料、修繕、融資、出口のバランスです。
サブリース賃料と入居者賃料を混同しない
サブリース物件では、入居者賃料ではなく、所有者が実際に受け取る賃料も使って収益を検証する必要があります。
入居者賃料が月10万円でも、所有者受取賃料が月8万5,000円なら、所有者の収支計算の基礎は8万5,000円です。
さらに、
・賃料改定
・免責期間
・修繕負担
・解約条件
なども契約書で確認します。
「入居者が10万円払っているから年間120万円の収益」と単純化しないことが重要です。
収益価格と周辺取引価格を照合する
収益価格を計算した後は、実際の市場でいくらで取引されているかを照合します。
国土交通省の不動産情報ライブラリでは、不動産取引価格情報や、中古マンション・戸建ての成約価格情報を検索できます。
ただし、同じマンションでも、
・階数
・方角
・専有面積
・室内状態
・賃貸条件
・取引時期
などによって価格は異なります。
国土交通省も、不動産の取引価格は個別条件や取引事情によって異なると注意事項を示しています。
したがって、
収益価格だけ
でも、
過去の成約事例だけ
でもなく、両方を照合します。
計算結果は将来価格や売却額の保証ではない
収益価格の計算結果が2,000万円になったとしても、
「将来2,000万円で売れる」
という意味ではありません。
賃料が下がればNOIも変わります。
還元利回りが上昇すれば、同じNOIでも収益価格の計算値は下がります。
市場金利、融資環境、投資需要、建物状態なども売却時の価格へ影響します。
収益計算は「価格を当てる方法」ではなく、販売価格をそのまま受け入れず、自分自身で検証するための方法として使います。
投資物件価格の確認表
| 項目 | 販売資料の数値 | 読者側の確認資料 | 悲観条件 |
|---|---|---|---|
| 賃料 | 満室想定・現在賃料 | 賃貸借契約書・周辺賃料 | 賃料下落 |
| 空室率 | 満室前提の場合あり | 入居履歴・地域募集状況 | 空室期間を長めに設定 |
| 管理費 | 現行額 | 管理資料 | 将来増額 |
| 修繕積立金 | 現行額 | 長期修繕計画 | 将来増額 |
| 固定資産税等 | 試算額 | 納税通知書等 | 現行実額を採用 |
| 保険料 | 試算・現行額 | 保険資料 | 更新時増額 |
| 修繕見込み | 記載なしの場合あり | 修繕履歴・建物状態 | 設備交換を想定 |
| 還元利回り | 販売側想定 | 市場事例・専門家資料 | 高めの利回りでも試算 |
| 融資条件 | 提案条件 | 金融機関正式条件 | 金利上昇時も確認 |
| 売却経費 | 未反映の場合あり | 仲介・登記等の試算 | 出口収支へ反映 |
販売資料より厳しい条件でも計算し、収支がどの程度変化するのか確認する方法を「悲観条件による再計算」と考えてください。
購入前チェックリスト
□ 表面利回りの計算式を自分で再計算した
□ 満室想定賃料と現行賃料を分けた
□ 募集賃料と成約賃料を分けた
□ サブリース時の所有者受取賃料を確認した
□ 管理費・修繕積立金を確認した
□ 固定資産税等・保険料を確認した
□ 空室を含めたNOIを試算した
□ 還元利回りの根拠を確認した
□ 収益価格と周辺取引価格を比較した
□ 賃料下落や修繕増加でも再計算した
□ 売却費用と将来のローン残高を確認した
FAQ
Q. 利回りが高い物件ほど安全ですか。
利回りが高いことだけでは、安全な投資とは判断できません。
高い利回りには、価格が低い理由や、空室、修繕、地域需要、築年数、融資の受けにくさなどが反映されている場合があります。
高利回りという数字を見たら、「なぜ高いのか」を確認してください。
Q. 築浅なら低利回りでも資産価値がありますか。
築浅という条件だけで資産価値や将来の売却価格は保証されません。
築浅物件には設備の新しさなどの利点がありますが、販売価格が収益力に対して高ければ、出口で価格差が問題になる可能性があります。
築年数だけではなく、NOI、購入価格、周辺成約価格、融資、将来の売却条件を併せて確認してください。
Q. 販売会社のシミュレーションを使えば十分ですか。
販売会社のシミュレーションは判断材料の一つですが、自分自身でも条件を変えて再計算することが重要です。
少なくとも、
賃料を下げる
空室期間を設ける
修繕負担を増やす
金利条件を変える
還元利回りを高くする
といった悲観条件でも計算してください。
販売資料と悲観条件の双方を比較することで、どの条件までなら投資を継続できるのかが見えやすくなります。
本章のまとめ
-
表面利回りは年間総賃料を購入価格で割った入口の指標であり、実際の利益率ではありません。
-
NOIは賃料等収入から空室損失や運営費用を控除して考えます。
-
収益価格はNOIと還元利回りから検討できますが、還元利回りは物件ごとに確認が必要です。
-
サブリース物件では入居者賃料と所有者受取賃料を分けて計算します。
-
収益価格は周辺の取引価格と照合し、販売価格・売却価格を総合的に検討します。
次章案内
第7章では、諸経費を含む借入れが売却時の不足額へ変わる仕組みを扱います。
物件価格だけではなく購入諸経費まで借りた場合、購入直後から「売却価格より借入残高の方が大きい」という状態が発生する可能性があります。次章では、ローン残高と売却可能価格の差から、オーバーローンと最大損失額を確認する方法を整理します。
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自衛官・公務員が不動産投資の利回り、収支、価格、融資、出口などを学び、自分自身で投資判断を行うための知識習得を目的とした講座です。特定物件の購入や投資成果を保証するものではありません。
参考資料
国土交通省「法令・不動産鑑定評価基準等」
不動産鑑定士が鑑定評価を行う際の統一的な基準として、不動産鑑定評価基準等が公表されています。
国土交通省「不動産情報ライブラリ」
不動産取引価格情報や中古マンション・戸建て等の成約価格情報を確認できます。
確認日:2026年9月2日
著者紹介
株式会社陸自不動産 代表取締役 小松野美貴哉
宅地建物取引士
自衛官としての勤務経験、自らの不動産投資経験、不動産取引の実務経験を踏まえ、自衛官・公務員が販売会社の提示価格だけに依存せず、賃料、収支、融資、契約、出口を自分自身で判断するための情報を発信しています。
免責事項
本記事は、投資用不動産の表面利回り、NOI、収益価格等について一般的な価格検討方法を説明することを目的としています。
掲載した計算例は、価格検討の仕組みを説明するための仮定例であり、不動産鑑定評価、個別物件の査定額、融資承認、将来賃料、将来の売却価格または投資成果を保証するものではありません。
還元利回り、運営費用、空室率、修繕費、賃料等は、地域、用途、築年数、建物状態、市況等によって異なります。
個別物件の購入・売却については宅地建物取引業者等へ、正式な鑑定評価については不動産鑑定士へ、融資については金融機関へ、税務については税理士等へ個別にご確認ください。
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