第3章 3-3 定年退官後も住宅ローンが残る家を持ち続けてよいか?
50代になった自衛官へ~これから「家」をどうする?

始めに結論
住宅ローンが残ったまま定年退官しても、持ち家を必ず売らなければならないわけではありません。ただし「毎月返済できている」「銀行から借りられた」は、退官後も持ち続けられる根拠にはなりません。退官日のローン残高、返済が続く年数、手取り収入の変化、税・保険・修繕費、手元現金を一つの表に置き、収入が下がった場合にも生活必需費を賄えるか確認してください。完済年齢よりも、退官した翌月に現金が足りるかが先です。
手放す前・持ち続ける前の5条件
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判定項目 |
確かめること |
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最大損失額 |
退官後に月間赤字が続く期間、修繕の一括支出、売却時残債不足、金利変動、契約条件等を試算。上限額は本人データなしに確定不可。 |
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成功条件 |
退官後の保守的手取りから生活費と住居費を払い、生活防衛資金を維持できる。 |
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失敗条件 |
賞与・退職金で赤字を埋める前提となり、修繕や減収で返済継続が困難になる。 |
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損切り基準 |
赤字が構造的に続き、手元資金の最低ラインを割る見込みなら、返済条件相談・売却比較を先行する。 |
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実行しない選択肢 |
無理な繰上返済を見送る、借入先に返済方法を相談する、現状維持と住居費縮小の複数案を比較。 |
数字の落とし穴|「返済期間はあと15年」と「15年持てる」は違う
借入残高は銀行への返済義務、住宅は生活の拠点、手元資金は現金の安全余力です。退官後の収入が減り、固定資産税・保険・屋根修繕が重なると、担保価値が残っていても現金が先に尽きる場合があります。
防衛省「令和8年版防衛白書|新たな生涯設計の確立」は、若年定年退職者の所得水準が一般に退職時の7割強、60歳時点にはさらにその7割へ低下する構造を説明しています。説明は政策上の一般的な構造を示すもので、個々の再就職収入を7割と決めつける数字ではありません。家計表は再就職先の雇用条件や実際の給与明細で作成します。
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確認項目 |
現役最終年 |
退官後の初年度 |
次の見直し時点 |
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収入 |
現在の給与明細・賞与 |
再就職条件・収入空白期間 |
契約更新・年金開始時期 |
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住宅ローン |
決済時点の返済予定表 |
毎月返済+退官時残高 |
完済時期と金利見直し |
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保有費 |
税・保険・修繕・積立 |
同費用を継続して計上 |
更新工事の集中年 |
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生活費 |
現在の実績 |
通勤・車・医療等の変動 |
高齢期の生活拠点 |
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現金残高 |
生活防衛資金 |
取り崩し可能額 |
不足時に住み替える費用 |
架空家計①|現役中の黒字が退官後に赤字へ変わる
以下は説明用の仮定で、特定階級の給与や再就職水準ではありません。毎月の生活必需支出16万円、住宅ローン8万円、税・保険・修繕積立月換算3万円を一定とし、手取り額だけを変えて比較します。
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手取り月収(架空) |
生活費 |
ローン+保有費 |
月間収支 |
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35万円 |
16万円 |
11万円 |
+8万円 |
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27万円 |
16万円 |
11万円 |
±0万円 |
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23万円 |
16万円 |
11万円 |
▲4万円 |
退官後の手取りが23万円の仮定では、毎月4万円、1年で48万円の赤字です。仮に自由に取り崩せる現金が240万円でも、その他の臨時費用がなければ約5年で減少し尽くす単純計算となります。実際には引越し・医療・家族の支出・金利変動等があるため、5年を保証する予測ではありません。
架空家計②|残債の数字だけでなく、売却の資金不足も見る
退官日時点の住宅ローン残高1,400万円、成約価格1,300万円、売却費用80万円と仮定すると、売却関連資金収支は「1,300-1,400-80=▲180万円」です。税金等を別に考える必要があり、売れば直ちに借金が消えるわけではありません。反対に価格が高く売れても、次の住居費を賄えるとは限りません。
持つ判断では住宅を使う価値、売る判断では抵当権を外せる資金と次の居場所を比較します。住宅ローン完済年齢や審査条件は商品ごとに異なり、住宅金融支援機構「フラット35 ご利用条件」に掲載された新規借入期間の制限は、すでに借りている全員の返済期間を一律に決める資料ではありません。

私の場合
定年退官後も住宅ローンが残ること自体は、必ずしも問題ではありません。重要なのは、退官後の収入で無理なく返済を続けられるかどうかです。
私が特に重視するのは、毎月の返済額だけでなく、生活費や固定資産税、将来の修繕費まで含めた資金計画です。
退職金で住宅ローンを完済できたとしても、その後の生活資金が不足しては意味がありません。
家を持ち続けることよりも、退官後の生活を安定させることを優先すべきだと考えています。
なお、住宅ローンと投資用ローンの違いについては、「投資用ローンと住宅ローンを混同しない」をご覧ください。
返済が重い場合は延滞前の相談が判断材料になる
住宅金融支援機構は「月々の返済でお困りになったとき」で、審査を伴う返済方法変更メニューを説明しています。金融機関により取扱いや審査条件が異なるため、「退官すれば返済額を減らしてもらえる」「必ず延長できる」と断定できません。返済が厳しくなる見込みを把握した時点で借入先へ相談し、条件変更後の総支払額の変化も確認します。
繰上返済に退職金を充てる場合も注意が必要です。毎月返済額が下がっても、急な修繕・通院・転居が起きたときの現金を使い尽くせば生活が不安定になります。退官後の収支に十分な余裕が残るまで、大きな繰上返済の実施可否は判断できません。
三重ストレス|金利上昇・減収・修繕が重なる年を作る
変動金利なら金利変更、固定金利でも収入減少と修繕費という複数の要因が重なり得ます。「金利上昇・収入減少・修繕が同時でも返せる?」は三重ストレスを、「手取り収入から住宅購入予算を逆算する方法」は支出から逆算する考え方を説明しています。本稿は購入前の借入可能額ではなく、退官後にすでに保有している家の継続可能性へ適用します。
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状況(全て架空) |
月間収支の点検 |
対応候補 |
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基準:手取り27万円 |
生活16+住居11=27万円、収支0 |
積立が実際にできているか確認 |
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減収:手取り23万円 |
同支出なら月▲4万円 |
生活固定費・返済条件を再点検 |
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一時修繕100万円 |
修繕資金の取り崩しが必要 |
予備費とローン変更を確認 |
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減収+修繕同時 |
赤字に一括支出が加わる |
売却・住み替えも含め早期比較 |
持ち続ける判断を止める条件
- 退官後の家計表に、楽観的な再就職年収しか置いていない。
- ローン残債・完済日・金利変更条件を借入先の最新書面で確認していない。
- 税・保険・修繕を住宅費から除いている。
- 赤字が続いても退職金で補えばよいと無期限に見込んでいる。
- 売却時の手取り不足と転居費を計算していない。
2026年給与ワンポイント|現役給与と退官後収入を分ける
防衛省「令和8年版防衛白書|自衛官の処遇改善」は、2025年度から各種手当の新設・増額など給与面の処遇改善が行われ、2027年度中に自衛官の給与体系の独自改定を目指すことを示しています。ただし将来の改定方針は、各人の2026年の給与額や退官後の収入を保証しません。現役時代の住居費を基準にせず、本人の現在の給与明細、退官時期、再就職契約、年金見込みなどを分けて記入してください。人事院の一般職俸給表を自衛官の給与表と取り違えないようにします。
無料ワークシート|家計と住宅の状態を記録する
「50代自衛官のための住まいを考えるワークシート」の「02 退官後収支表」「04 完済年齢確認表」「07 住宅ローン残債確認表」に、退官日、金融機関の残高・返済予定、手取り3案、保有費、現金余力を同時に記入してください。第1章第6記事「50代自衛官の住宅ローン」は仮審査後の条件変更・契約履行リスクを詳述する別論点であり、本稿では退官後の継続保有を扱っています。
よくある質問(Q&A)
Q1.定年退官後に住宅ローンが残っていたら違法ですか?
一般に住宅ローンが残ったまま退官すること自体が直ちに違法になるわけではありません。返済契約と家計の継続可能性を確認してください。
Q2.銀行審査に通ったので退官後も返済できると判断できますか?
審査承認と将来の返済余力は別です。退官後の手取り・修繕・税保険・生活費を用いて再計算します。
Q3.退職金で一括返済した方が安全ですか?
毎月返済負担は減りますが、手元現金が不足する場合があります。生活防衛資金を残す条件と繰上返済の効果を比較します。
Q4.返済が苦しくなったら必ず返済期間を延長できますか?
延長・変更は借入先の承諾・審査条件によります。返済に遅れる前に金融機関へ相談してください。
Q5.住宅ローンが残る家は売れませんか?
売却検討は可能です。通常の売買で抵当権抹消を実現できるよう、売却代金と一括返済額・費用を照合する必要があります。
根拠資料・確認日
公的制度・公式資料および既存記事の確認基準日:2026年10月10日。制度・補助、契約、税務、保険の取扱いは公開時点で再確認してください。架空の費用・家計・残債は実際の相場・予測・個別事例ではありません。
- 防衛省「令和8年版防衛白書|新たな生涯設計の確立」
- 住宅金融支援機構「フラット35 ご利用条件」
- 住宅金融支援機構「月々の返済でお困りになったとき」
- 金融庁「ライフプランシミュレーター」
- 防衛省「令和8年版防衛白書|自衛官の処遇改善」
執筆/監修 株式会社陸自不動産 小松野美貴哉