⑬ 自分で「買う・買わない・持つ・売る」を決める最終チェック
自衛官の不動産投資
自分で「買う・買わない・持つ・売る」を決める最終チェック
初めに結論
不動産投資の最終判断は、物件種別や融資承認だけでは決まりません。投資目的、価格根拠、実質収支、借入残高、税務、服務、売却手取り、最大損失を自分の言葉と数値で説明できるかが基準です。不明項目が残る場合は、資料取得、再計算、第三者確認を行い、解消しなければ見送ります。
「条件の良いワンルームなら買ってよいのか」「毎月赤字でも長期保有すべきなのか」「損切りはいくらになったら実行すべきなのか」。
第1章から第12章まで、不動産投資の信用力、服務、営業、価格、利回り、NOI、借入れ、サブリース、売却、住宅ローン、税務まで確認してきました。
最終的に必要なのは、他人から正解を教えてもらうことではありません。
営業担当者の評価、金融機関の融資承認、節税額、表面利回りといった単独の指標ではなく、複数の条件を自分自身で組み合わせ、「買う」「見送る」「持つ」「売る」の判断を行える状態を作ることです。
本章では、全13章の内容を一枚の最終判定シートへ集約します。
投資目的を一文で書く
投資目的を一文で説明できない場合は、購入判断へ進まないことが基本です。
たとえば、
「定年後の家賃収入を作りたい」
「10年以上保有し、借入返済を進めながら資産形成したい」
「土地を保有しながら賃料収入を得たい」
など、目的を具体化します。
「営業担当者に勧められた」
「節税になると言われた」
「自衛官は融資が通りやすいと言われた」
という理由は、投資目的ではありません。
目的が決まれば、保有期間、必要収益、許容損失、出口条件を設定できます。
自己判断に必要な学習到達基準を確認する
最低限の数字を自分で説明できる状態を、購入判断のスタート地点とします。
少なくとも、
・購入価格
・周辺取引価格
・年間賃料
・NOI
・年間現金収支
・借入総額
・5年後・10年後の借入残高
・想定売却手取り
・最大損失額
を確認してください。
計算方法を完全に暗記する必要はありません。
重要なのは、販売会社のシミュレーションに数字を入れてもらうだけではなく、「なぜその数字になるのか」を自分で確認できることです。
自衛官の服務承認と所属先確認を終える
現職自衛官は、投資採算とは別に服務上の確認が必要です。
第2章で扱ったように、不動産賃貸と服務上の取扱いは、自衛隊法、自衛隊法施行規則、関係する部内規定、所属先での確認を分けて考える必要があります。
税務上の「5棟10室」だけを理由に、服務上の承認が不要と判断してはいけません。
購入後に服務上の問題へ気付くのではなく、購入前に確認を終えます。
販売価格・周辺取引価格・収益価格を比較する
販売価格をそのまま資産価値とは考えません。
確認する価格は最低でも三つです。
-
販売価格
-
周辺の取引価格・成約価格
-
賃料とNOIから考えた収益価格
国土交通省の不動産情報ライブラリでは、不動産取引価格情報や成約価格情報を確認できます。成約価格情報は指定流通機構が保有する情報を基に提供されており、不動産取引価格は物件固有の条件や取引事情によって異なる点にも注意が必要です。
一つの価格だけで「安い」「高い」と決めず、複数の根拠を照合します。
実質収支と悲観シナリオを再計算する
標準条件で黒字でも、条件悪化時に資金が持たなければ投資判断として十分ではありません。
通常条件に加えて、
・空室6か月
・賃料10%下落
・金利上昇
・突発修繕
・管理費や修繕積立金の増額
などを候補として再計算します。
悲観条件は「最悪を想像して怖がる」ためではありません。
どの程度の悪化まで耐えられるかを数字で確認するためです。
ローン残高と5年後・10年後の想定売却手取りを比べる
毎月返済できるかだけではなく、途中で売却できるかを確認します。
購入前に返済予定表を取得し、
現在
5年後
10年後
のローン残高を確認してください。
次に、複数の売却価格を想定して売却手取りを計算します。
想定売却不足額=ローン残高+売却費用-現実的な売却価格
将来価格は保証できません。
そのため、一つの査定額だけではなく、周辺取引価格、収益価格、複数社査定などを組み合わせて判断します。
最大損失額を購入前に算出する
不動産投資で最も重要な数字の一つが、
「自分はいくらまで失ってよいのか」
です。
最大損失額は、物件側の数字だけでは決まりません。
本人の、
・預貯金
・年収
・家族構成
・生活費
・自宅購入予定
・教育費
・退職時期
・他の借入れ
によって異なります。
「1,000万円損しても持てる人」と「200万円の追加負担で生活計画が崩れる人」では、同じ投資物件でも判断が変わります。
成功条件と失敗条件を数値で定義する
投資判断では、成功と失敗を後から都合よく定義しないことが重要です。
購入前に条件を決めます。
成功条件の例
・年間現金収支が一定額以上
・空室率が設定範囲内
・修繕資金を確保できている
・売却不足額が許容範囲内
・家族の自宅購入計画を妨げない
失敗条件の例
・年間赤字が許容額を超えた
・大規模修繕に対応できない
・売却不足額が上限を超えた
・生活防衛資金を取り崩し続ける
・自宅購入計画へ重大な影響が出た
条件を数値にすると、感情だけで保有継続を決めにくくなります。
損切り基準と追加自己資金の上限を決める
損切りは「怖くなったら売る」ではなく、事前に決めた条件で判断します。
たとえば、
・年間赤字が○万円を超えた
・追加修繕が○万円を超えた
・売却不足額が○万円以下になったら売却する
・追加自己資金は最大○万円まで
などです。
特に重要なのが、追加自己資金の上限です。
「あと100万円入れれば持てる」
「さらに100万円入れれば売らなくて済む」
という判断を繰り返すと、当初想定した最大損失を超える可能性があります。
購入しない選択肢を正式に残す
不動産投資では、「良い物件を探す」ことだけが行動ではありません。
買わない判断も投資判断です。
価格根拠が説明できない。
資料が出てこない。
出口が計算できない。
最大損失が許容範囲を超える。
服務上の確認が終わっていない。
家族の自宅購入資金が不足する。
一つでも重要な未確認事項が残るなら、契約を見送る合理性があります。
別の物件を探す方法もあれば、不動産投資自体を一旦行わない方法もあります。
契約当日に署名しない判断ルールを持つ
購入を急がせる事情と、物件の採算性は別の問題です。
「本日中なら購入できる」
「他にも検討者がいる」
「融資承認が出ている」
という状況でも、未確認事項があるなら契約を急ぐ必要はありません。
契約前に、
資料取得
再計算
第三者確認
家族との確認
を終えるルールを作ります。
条件が合わず、その間に別の買主へ売れたとしても、確認できない投資を避けたという判断は成立します。
第三者査定・管理会社・金融機関へ確認する
販売会社だけで全項目を確認する必要はありません。
価格は複数の不動産会社や公開データ。
賃貸管理は管理会社。
融資は金融機関。
服務は所属先。
税務は税務署・税理士。
契約や法律問題は必要に応じて専門家。
それぞれ確認先を分けます。
販売会社の説明と第三者資料が一致しているなら、判断材料の信頼性を高められます。
不動産投資・最終判定シート
| 判断項目 | 確認資料 | 本人の回答 | 合格条件 | 未達時の行動 |
|---|---|---|---|---|
| 投資目的 | 自己判断シート | 一文で説明できる | 目的を再設定 | |
| 服務 | 所属先・規定 | 必要確認完了 | 契約停止 | |
| 販売価格 | 売買資料 | 金額を把握 | 資料取得 | |
| 周辺取引価格 | 不動産情報ライブラリ・査定 | 複数根拠あり | 再調査 | |
| 賃料 | 賃貸借契約・賃料事例 | 現行・市場賃料を確認 | 再調査 | |
| NOI | 管理・税・修繕資料 | 自分で計算できる | 再計算 | |
| 年間現金収支 | 収支表 | 許容範囲内 | 条件変更・見送り | |
| 悲観条件 | 自作シミュレーション | 資金耐久性あり | 見送り検討 | |
| 借入残高 | 返済予定表 | 各年残高を把握 | 金融機関確認 | |
| 売却手取り | 査定・費用見積り | 不足額を把握 | 再計算 | |
| 自宅購入 | 家計・住宅計画 | 将来計画を妨げない | 投資時期見直し | |
| 予備資金 | 預貯金 | 空室・修繕へ対応可能 | 資金確保 | |
| 税務 | 申告・税務資料 | 税と現金収支を分離 | 税務確認 | |
| 管理 | 管理委託契約 | 転勤時も対応可能 | 管理方法再検討 | |
| 最大損失額 | 資金計画 | 金額を明記できる | 判定保留 | |
| 成功条件 | 投資計画 | 数値で定義済み | 判定保留 | |
| 失敗条件 | 投資計画 | 数値で定義済み | 判定保留 | |
| 損切り基準 | 出口計画 | 時期・金額を明記 | 判定保留 | |
| 実行しない選択肢 | 本人判断 | 見送り条件あり | 契約しない |
空欄がある、販売会社の回答だけしかない、根拠資料のない数字がある場合は「合格」ではなく判定保留です。
購入前の停止条件
次の項目に該当する場合は、少なくとも契約前に確認を止めず、判断を保留してください。
□ 必要資料が提出されていない
□ 販売価格の根拠が説明できない
□ 周辺取引価格を確認していない
□ 生活防衛資金が不足する
□ 自衛官として必要な服務確認が終わっていない
□ 融資の資金使途と実際の利用目的が一致しない
□ 売却時の出口を説明できない
□ 最大損失額を計算していない
□ 契約当日に判断を急がされている
未達項目がある場合は、
資料取得 → 再計算 → 第三者確認 → 見送り
の順で対応します。
保有中は年1回以上の定期点検を行う
購入した後も、判断は終わりません。
少なくとも年1回以上、
・直近12か月の賃料収入
・空室期間
・管理費
・修繕費
・税金
・年間現金収支
・ローン残高
・複数社査定
・想定売却手取り
・売却不足額
を更新します。
国土交通省の不動産情報ライブラリは、不動産取引価格情報を四半期ごとに公表しており、市場状況を確認する一つの資料として利用できます。
購入時の数字を10年間使い続けるのではなく、現在の数字へ更新します。
「持つ」と「売る」を同じ表で比較する
売却査定が購入価格を下回っていたとしても、不足額だけで即座に売却を決める必要はありません。
反対に、「売れば損だから」という理由だけで保有を続けるのも適切とは限りません。
比較するのは、
今売った場合の負担
と、
保有を続けた場合の赤字・修繕・空室・金利・税務・追加資金・将来の出口
です。
両方を同じ基準日で比較します。
本人に合う不動産投資は前向きに評価する
全13章を通じて、私が否定しているのは「不動産投資そのもの」ではありません。
自分で価格も収支も出口も判断できない状態で、営業説明だけを根拠に大きな借金を負う投資判断です。
十分に学び、
・投資目的が明確
・価格根拠を確認済み
・収益力を計算できる
・借入れを管理できる
・服務上の確認を終えている
・最大損失を受け入れられる
・損切り条件を決めている
・自宅購入や家族生活を守れる
という状態であれば、本人の目的と条件に合った不動産投資を前向きな資産形成の選択肢として検討できます。
重要なのは、誰かに「買うべき」と言われることではありません。
自分自身で「買う」「買わない」「持つ」「売る」を選べることです。
FAQ
Q. 何を説明できれば自己判断できる状態ですか。
投資目的、価格根拠、年間収支、空室時の負担、借入残高、想定売却額、最大損失、損切り条件を自分の言葉と数字で説明できる状態が一つの基準です。
さらに、自衛官であれば服務上の確認、将来の自宅購入計画、税務、管理方法も確認します。
販売会社のシミュレーションを読み上げられるだけではなく、数字の根拠を説明できる状態を目指してください。
Q. 条件を満たすワンルームなら購入してもよいですか。
物件種別だけを理由に購入を否定する必要はありません。
ワンルームでも、購入価格、賃料、NOI、融資、サブリース、管理、売却価格、最大損失などを確認し、本人の目的と条件に合う場合には投資対象として検討できます。
ただし、条件を満たしたから投資成果が保証されるわけではありません。
「ワンルームだから買わない」でも「条件が良いから必ず買う」でもなく、自分の基準で判断します。
Q. 判断できない項目が残る場合はどうしますか。
重要項目が判断できない状態では、契約を進めず判定を保留します。
まず資料を取得します。
次に自分で再計算します。
必要に応じて第三者へ確認します。
それでも根拠が確認できない場合は、購入を見送ります。
確認できないことを「多分大丈夫」で埋めないことが重要です。
本章のまとめ
-
不動産投資は、営業担当者ではなく自分自身が数字と根拠を説明できる状態で判断します。
-
最大損失額を購入前に決め、家族の生活や自宅購入へ与える影響まで確認します。
-
成功条件と失敗条件を事前に数値化し、結果を後から都合よく評価しないようにします。
-
損切り基準と追加自己資金の上限を決め、「持つ」「売る」を同じ条件で比較します。
-
購入後も年1回以上は価格、収支、借入残高、出口を更新し、自分の投資判断を定期点検します。
シリーズ最終導線
全13章を読み終えても、すぐに不動産を購入する必要はありません。
まず、関連する陸自不動産のブログや本シリーズ各章を使い、判断できない項目を学び直してください。
次に、体系的に学習したい場合は不動産投資講座を利用する方法があります。
書籍で考え方を整理する方法もあります。
個別物件について自分だけでは判断できない場合には、不動産会社、金融機関、税理士、弁護士、所属先など、確認内容に合った相談先を利用してください。
個別相談だけが解決方法ではありません。自分で調べ、自分で計算し、自分で見送れる状態を作ることが、本シリーズの最終目的です。
関連書籍・講座
関連書籍
『公務員はなぜマンション投資で狙われるのか?: あなたが狙われる理由、投資マンション営業の裏側』|Amazon
https://www.amazon.co.jp/dp/B0FQ16LNPL
自衛官・公務員が投資マンション営業を受けた際、販売価格、収支、融資、サブリース、最大損失、出口まで自分自身で判断するための学習資料です。
関連書籍
『再就職で満足しているのか?: 勝てない場所で消耗するな。再起動せよ。』|Amazon
https://www.amazon.co.jp/dp/B0FC24B4ZT
自衛官が現職中から退職後の働き方、収入源、資産形成、人生設計について考えるための学習資料です。特定の投資方法や投資成果を保証するものではありません。
関連講座
『自衛官(公務員)の為の不動産投資教本〖全37動画 プレミアム版〗』|コエテコカレッジ byGMO
https://college.coeteco.jp/live/lj6c7x79
自衛官・公務員が不動産投資の価格、収支、融資、管理、税務、損切り、出口を体系的に学び、自分自身で投資判断を行うための知識習得を目的とした講座です。特定物件の購入や投資成果を保証するものではありません。
参考資料
国土交通省「不動産情報ライブラリ」
https://www.reinfolib.mlit.go.jp/
不動産取引価格、地価、都市計画、防災情報、周辺施設等を確認できます。
国土交通省「不動産価格(取引価格・成約価格)情報」
https://www.reinfolib.mlit.go.jp/realEstatePrices/
不動産取引価格情報と成約価格情報を検索でき、対象物件の価格検証を行う際の参考資料として利用できます。
確認日:2026年9月2日
著者紹介
株式会社陸自不動産 代表取締役 小松野美貴哉
宅地建物取引士
自衛官としての勤務経験、自らの区分所有、一棟物件、戸建・駐車場活用、民泊、不動産投資における損切り経験、不動産売買の実務経験を踏まえ、自衛官・公務員が他人任せではなく、自分自身で「買う・買わない・持つ・売る」を判断するための情報を発信しています。
免責事項
本記事は、不動産投資の購入、見送り、保有継続、売却について一般的な判断材料と点検方法を提供することを目的としています。
特定物件の購入・保有・売却、融資承認、適用金利、税額、査定額、賃料、将来価格、投資成果を保証するものではありません。
掲載した計算式や判断基準は一般的な整理方法であり、個別案件では物件、地域、契約、融資、税務、服務、家族状況等によって結果が異なります。
現職自衛官の服務については所属先へ、融資については金融機関へ、税務については税務署または税理士等へ、契約・法律問題については弁護士等へ、物件・価格については宅地建物取引業者や必要に応じて不動産鑑定士等へ個別にご確認ください。
#不動産投資チェックリスト #自衛官不動産投資 #自衛官資産形成 #公務員不動産投資 #不動産投資判断 #不動産投資初心者 #ワンルームマンション投資 #不動産投資損切り #損切り基準 #最大損失 #不動産投資出口戦略 #投資マンション #不動産投資見送り #不動産投資自己判断 #陸自不動産