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⑫ 不動産所得と税金|節税と赤字を混同しない

自衛官の不動産投資

不動産所得と税金|節税と赤字を混同しない

初めに結論

不動産所得は「総収入金額-必要経費」で計算する税務上の所得であり、ローン元金返済を含む実際の現金収支とは一致しません。所得税等が減る場合があっても投資利益を意味するとは限らないため、減税額だけでなく、税引後の保有収支と売却まで含めた総収支で判断する必要があります。

「所得税が還付されるなら、毎月赤字でも得なのではないか」「減価償却費は実際に銀行口座から出ていく費用なのか」「区分マンション1室でも青色申告はできるのか」。

不動産投資の税務で混乱しやすい原因は、税務上の損益と、実際の現金の動きを同じものとして考えてしまうことです。

減価償却費は、減価償却資産の取得価額を一定期間に配分して必要経費化する仕組みであり、毎年同額の現金を支払うものではありません。一方、ローン元金返済は現金が出ていきますが、通常は不動産所得の必要経費になりません。

本章では、不動産所得、現金収支、売却時の譲渡所得を三つに分け、「節税になる」という説明を自分自身で検証する方法を整理します。

 

不動産所得は総収入金額から必要経費を差し引く

不動産所得は、家賃収入から不動産収入を得るために必要な経費を差し引いて計算します。

国税庁は、不動産所得について次の基本式を示しています。

不動産所得=総収入金額-必要経費

総収入金額には家賃だけでなく、返還を要しない敷金・保証金、更新料などが含まれる場合があります。

必要経費としては、事業との関連性や個別条件を確認したうえで、

・固定資産税
・損害保険料
・減価償却費
・修繕費
・管理費
・借入金利息等

が対象になる場合があります。

重要なのは、必要経費と現金支出は同じ範囲ではないという点です。

 

固定資産税・保険料・減価償却費・修繕費を確認する

固定資産税や保険料など、不動産賃貸のために必要な支出は、条件に応じて必要経費になります。

修繕費についても、通常の維持管理や原状回復のための支出であれば必要経費となる場合があります。

一方、建物の価値を高めたり、使用可能期間を延ばしたりする支出は「資本的支出」と判断され、支払った年に全額を必要経費とせず、減価償却を通じて各年へ配分する場合があります。

「修繕という名称だから全額経費」とは判断できません。

支出の実質を確認する必要があります。

 

ローン元金返済と支払利息を分ける

ローン返済額のうち、元金部分と利息部分は税務上の扱いが異なります。

不動産賃貸のための借入金について、業務に対応する借入金利息は必要経費になる場合があります。

一方、借入金の返済額のうち元金部分は必要経費になりません。国税庁の確定申告案内でも明示されています。

たとえば毎月8万円を金融機関へ返済していても、

元金5万円
利息3万円

なら、8万円全額を必要経費として計算するわけではありません。

しかし銀行口座からは8万円が出ていきます。

税務上の利益と現金収支が一致しない大きな理由の一つです。

 

減価償却費と当年の現金支出は一致しない

減価償却費は、資産取得時に支払った金額のうち対象部分を、税務上複数年へ配分する仕組みです。

国税庁は、建物など時間の経過によって価値が減少する資産について、取得価額を使用可能期間にわたり必要経費へ配分する手続を減価償却と説明しています。

たとえば前年に建物を購入し、購入年に現金を支払っていても、その後の各年に減価償却費が必要経費として計上される場合があります。

したがって、

減価償却費100万円=その年に100万円の現金が出ていった

という意味ではありません。

 

土地は減価償却せず建物等を区分する

土地と建物を一括して減価償却することはできません。

国税庁は、土地について時間の経過によって価値が減少する減価償却資産には該当しないとしています。

投資用不動産を購入した場合には、

土地
建物
建物附属設備等

を適切に区分して確認する必要があります。

販売価格全額を建物価格として減価償却することはできません。

また、建物価格だけを見て単純に耐用年数で割れば必ず正しい減価償却費になるわけでもありません。

取得時期、中古・新築、構造、設備区分、償却方法などを確認します。

 

不動産投資の「三つの収支」を分ける

不動産投資では、最低でも三種類の数字を分けて確認してください。

1.税務上の不動産所得

不動産所得=総収入金額-必要経費

税金を計算するための所得です。

 

2.保有中の概算現金収支

保有中の概算現金収支=現金収入-現金支出-ローン元金返済

実際に銀行口座へいくら残ったかを見るための考え方です。

 

3.売却時の譲渡所得

譲渡所得の基本形=譲渡価額-取得費-譲渡費用

土地・建物を売却した際の税務上の所得を考える基本式です。国税庁は、建物の取得費について所有期間中の減価償却費相当額を差し引いて計算するとしています。

三つの数字は目的が異なります。

 

税務損益・現金収支・売却損益の比較表

項目 税務上の不動産所得 現金収支 売却時の譲渡所得
家賃収入 収入 入金 原則として直接使用しない
管理費 条件により必要経費 支出 原則として直接使用しない
修繕費 内容により必要経費 支出 内容により扱いを確認
固定資産税 業務用部分等を確認 支出 原則として直接使用しない
保険料 条件により必要経費 支出 原則として直接使用しない
減価償却費 必要経費 当年の現金支出とは一致しない 建物取得費へ影響
支払利息 条件により必要経費 支出 個別確認
ローン元金返済 原則必要経費ではない 支出 ローン残高へ影響
売却代金 不動産所得ではない 入金 譲渡価額
取得費 保有中の不動産所得とは別 購入時等に支出 譲渡所得計算で使用
譲渡費用 不動産所得とは別 売却時に支出 譲渡所得計算で使用

架空例|税務上の利益と現金残高は一致しない

以下は仕組みを説明するためだけの架空例です。

対象年:2026年
年間家賃収入:120万円
管理・税・保険等の現金経費:30万円
借入金利息:20万円
減価償却費:20万円
ローン元金返済:75万円
所得税率:説明用として10%と仮定
※土地・建物価格、実際の税率、住民税、復興特別所得税等を含む個人の税額計算ではありません。

 

税務上の不動産所得

120万円-30万円-20万円-20万円

50万円

現金収支

120万円-30万円-20万円-75万円

▲5万円

 

税務上は50万円の所得があっても、ローン元金75万円を現金で返済するため、銀行口座では年間5万円の持ち出しになるという仮定です。

仮に所得税率を10%として単純化すれば、50万円に対する所得税への影響は5万円相当になりますが、実際の税額は本人の所得状況、控除、他の所得、制度等によって異なります。

税務上黒字でも現金赤字になる場合があり、反対に減価償却の影響で税務上赤字でも現金収支が同じ赤字額になるとは限りません。

 

 

不動産所得の赤字と損益通算には制限がある

不動産所得で損失が生じた場合、他の所得と損益通算できる場合があります。

しかし、赤字なら全額が必ず給与所得等と通算できるわけではありません。

国税庁は、不動産所得の損失のうち、土地等を取得するための借入金利子に相当する一定部分などについて、損益通算できない場合があると説明しています。

したがって、

「不動産を赤字にすれば給与所得と相殺でき、必ず税金が戻る」

という説明だけで投資判断を行うべきではありません。

 

 

事業的規模の目安と「5棟10室」

税務上、不動産貸付けが事業として行われているかは、原則として社会通念上の事業規模で実質的に判断されます。

国税庁は建物貸付けについて、

・貸間・アパート等がおおむね10室以上
・独立家屋がおおむね5棟以上

であれば、原則として事業として行われているものとして扱う基準を示しています。

俗に「5棟10室」と呼ばれる目安です。

ただし、税務上の事業的規模と、自衛官の兼業・兼職に関する服務判断は別制度です。

第2章で扱った自衛隊法第62条等の確認を、「5棟10室未満だから不要」と置き換えることはできません。

 

青色申告は「できるか」と控除額を分ける

青色申告を行えるかという問題と、10万円・55万円・65万円の青色申告特別控除のどれを適用できるかという問題は分けて確認します。

国税庁は、青色申告特別控除について、55万円、一定要件を満たす65万円、または10万円の制度を案内しています。

55万円控除では、不動産所得または事業所得を生ずべき事業を営み、正規の簿記による記帳、貸借対照表・損益計算書等の提出などの要件があります。

65万円控除では55万円控除の要件に加え、一定の優良な電子帳簿保存またはe-Taxによる期限内申告等が関係します。

55万円・65万円の要件に該当しない青色申告者については10万円控除の制度があります。

したがって、

「区分マンション1室だから青色申告そのものができない」

と単純には判断できません。

一方、青色申告の承認、事業的規模、控除額の要件は別々に確認する必要があります。

 

 

売却時の譲渡所得・取得費・所有期間を確認する

保有中に節税効果があったかだけで、不動産投資全体の税負担は判断できません。

土地・建物を売却した場合には、保有中の不動産所得とは別に譲渡所得を計算します。

国税庁の基本式は、

譲渡所得=譲渡価額-取得費-譲渡費用

です。

建物の取得費は、所有期間中の減価償却費相当額を差し引いて計算します。

また、土地・建物の長期譲渡所得と短期譲渡所得の判定では、「売却した年の1月1日時点」で所有期間が5年を超えているかを確認します。

保有中の税務だけではなく、出口時の税務まで確認する必要があります。

 

 

投資判断前の税務・現金収支チェックリスト

□ 年間家賃収入を確認した
□ 必要経費の内訳を確認した
□ ローン元金と支払利息を分けた
□ 減価償却費と現金支出を分けた
□ 土地と建物の価格を区分した
□ 修繕費と資本的支出の違いを確認した
□ 税務上の不動産所得を計算した
□ 実際の年間現金収支を計算した
□ 損益通算できない部分がないか確認した
□ 青色申告特別控除の適用要件を確認した
□ 税務上の5棟10室と自衛官の服務基準を分けた
□ 売却時の取得費・譲渡費用を確認した
□ 税還付を除いても投資として成立するか確認した

 

 

 

FAQ

Q. 所得税が還付されたら不動産投資は成功ですか。

所得税等の還付だけでは、不動産投資が成功したとは判断できません。

還付が生じる場合でも、毎月の現金持ち出し、修繕、ローン元金、将来の売却価格などを含めると、投資全体では赤字となる可能性があります。

税還付額ではなく、税引後の保有収支と売却まで含む総収支を確認してください。

 

Q. 区分1室では青色申告できませんか。

区分1室という理由だけで、青色申告そのものが一律にできないとは言えません。

一方、青色申告特別控除の55万円・65万円には事業性、記帳、申告方法等の要件があり、10万円控除とは条件が異なります。

実際の適用については、対象年分の国税庁資料を確認し、必要に応じて税務署または税理士へ相談してください。

 

Q. 5棟10室未満なら自衛官の兼業承認も不要ですか。

税務上の「5棟10室」を、自衛官の兼業承認要否へそのまま当てはめることはできません。

5棟10室は不動産貸付けが税務上の事業的規模に該当するかを判断する目安の一つです。

現職自衛官の服務上の判断は、自衛隊法第62条、自衛隊法施行規則、部内規定、所属先への確認に基づいて行う必要があります。

 

本章のまとめ

  1. 不動産所得は税務上の所得であり、実際の現金収支とは一致しません。

  2. 減価償却費は必要経費となる場合がありますが、当年の現金支出と同額ではありません。

  3. ローン元金返済は現金支出ですが、通常の不動産所得計算では必要経費になりません。

  4. 青色申告は申告制度と10万円・55万円・65万円の控除要件を分け、税務上の5棟10室と自衛官の兼業承認も分けて判断します。

  5. 不動産投資は保有中の節税だけでなく、売却時の取得費・減価償却・譲渡所得まで含む総収支で判断する必要があります。

 

次章案内

第13章では、全章の知識を最終判定シートへ集約し、買う・見送る・保有・売却を自分自身で決めます。

信用力、服務、価格、利回り、NOI、借入残高、サブリース、最大損失、自宅購入、税務、出口まで確認し、「営業担当者が勧めたから」ではなく、自分の判断で不動産投資を選択するための最終章です。

 

 

 

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参考資料

国税庁「No.1370 不動産収入を受け取ったとき(不動産所得)」
国税庁 No.1370

国税庁「No.1373 事業としての不動産貸付けとそれ以外の不動産貸付けとの区分」
国税庁 No.1373

国税庁「No.1391 不動産所得が赤字のときの他の所得との通算」
国税庁 No.1391

国税庁「No.2072 青色申告特別控除」

国税庁「No.3202 譲渡所得の計算のしかた(分離課税)」
国税庁 No.3202

国税庁掲載資料の法令等基準日:令和7年4月1日現在の資料を含む
記事確認日:2026年9月2日
公開時には対象年分の制度・申告要件を再確認してください。

 

 

 

著者紹介

株式会社陸自不動産 代表取締役 小松野美貴哉
宅地建物取引士

自衛官としての勤務経験、自らの不動産投資経験、不動産売買の実務経験を踏まえ、自衛官・公務員が「節税になる」という説明だけに判断を委ねず、税務上の所得、実際の現金収支、ローン残高、売却まで含めて投資判断を行うための情報を発信しています。

 

 

免責事項

本記事は、不動産所得、必要経費、減価償却、損益通算、青色申告、譲渡所得等について一般的な税制度と収支の整理方法を説明することを目的としています。

個別の必要経費、減価償却費、青色申告特別控除額、損益通算額、還付額、譲渡所得、税額または投資成果を保証するものではありません。

税制は改正される場合があり、物件取得時期、土地・建物の区分、構造、取得方法、借入れ、本人の所得状況等によって取扱いが異なります。

個別の税務・申告については税務署または税理士等へ、現職自衛官の服務上の承認については所属先へ、不動産契約や法律判断については各分野の専門家へご確認ください。

 

 

 

 

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